今から10年前の2007年というと、私の研究室がちょうど立ち上がったばかりの頃である。4月から研究室に加わってくれたポスドクの川俣さん、大学院生の岩崎さん、秘書の丸山さんと私という4人体制で、規模は小さいながらも密度の濃い研究が始まりつつあった。とはいっても、当時のメールを読み返してみると、研究所の新人歓迎会でやる出し物のために、ピタゴラスイッチという番組内でやっていた「アルゴリズム行進」を替え歌にして体操しようということになり、カラオケを宅録で作って研究室で皆で歌を重ね録りしてみたり、隣の研究室から「人数が少なくて寂しいでしょうから良かったら一緒にどうですか」と研究室旅行に誘っていただき、山形まで交代で運転しながら出かけたりと、なかなか楽しそうな日々を過ごしていたらしい。
セントラルドクマを教える教職の立場にあって、non-coding RNAは台頭著しい若手プレーヤーであるものの、果たして、これが転写因子やコファクター、あるいは膜タンパクからシグナル分子といったエスタブリッシュメントされたセレブリティにどこまで食い込めるものか、毎週のように溢れかえる確固たる新知見は、まだ知らぬRNAワールドへ強く誘ってくれるものの、Xistをこえるlong non-coding RNAを待ちわび続けながら、また、small RNAについても、マクロの世界を補完する、サポーティブなsmall worldかもしれない、という、どこか胸を張り切れない感があったことは事実です。
いわゆる「次世代シーケンサ(NGS)」が使われはじめたのは、およそ10年前のことでした。その当時所属していた研究室でも、「なんだかスゴイ機械がでてきたらしい!」といって、早速興奮気味に勉強会が開催されたことを覚えています。初期のNGSである454がリリースされた2005年に私はまだ学部生で、実際にNGSを使って研究するようになったのはさらに数年先のことでしたが、それまで基本的にデータベースに登録されているシーケンスデータを用いてバイオインフォマティクス解析を行っていた私にとって、自身でデータを取得するところから研究を始められるということはパラダイムシフトでした。
つい最近、パスポートの有効期限が切れている事に気がつきました。慌てて申請手続きを済ませ、使えなくなった古いパスポートのスタンプやビザをパラパラと眺めていると、10年前の記憶がよみがえってきます。パスポート取得日は2006年10月。私がポスドクとしてアメリカに渡る直前に更新したものです。思い起こせばその翌年の2007年は、これまでの人生で一番タフな一年でした。