2017年02月27日(月)

心に残る言葉

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この領域に入れてもらってからノンコーディングRNAの研究を始めたこともあって、この2年間は勝手の分からないことが数多くありました。出町柳駅から京都大学理学部へ講義に向かう途中、領域前半を振り返ってそのような失敗・不手際の数々をつらつら考えて歩いていたところ、とある小さな教会の看板に目が留まりました。それには次のような言葉が書いてありました。

「狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入るものが多い。」
(マタイによる福音書7章13節)

ノンコーディングRNAの研究はかつては狭き門だったのでしょうが、この領域が始まる少し前頃から大きく拡大し、研究者人口も増えて今や広き門になったかもしれません。このような状況では、独創性のある切り口でやらないと本当に滅びに通じてしまうでしょう。領域後半に向かって気を引き締める良いきっかけとなりました。

話は変わりますが、みなさん、宮崎駿の「風立ちぬ」は見ましたか。ゼロ戦を作った堀越二郎がモデルとなっています。映像、音楽、すばらしいです。主人公の妻に対する扱い方などを含め物語には賛否両論あるようですが、それを含めて私は大好きです。宮崎駿の最高傑作(個人の感想です)。引退する前にどうしても作りたかった、物語に託した宮崎自身の自伝のようなもの。大きなことを達成しようとすると多くのことを犠牲にしなければならない、いや、してしまう。その情熱は簡単にヒューマニズムを超えてしまいます。ゼロ戦を作るために主人公は一心不乱に働き、多くの事を犠牲にしてしまいます。私にとっては研究がそうでした。寝ても覚めても研究のことを考えていないと良い研究はできません。ここには書けないような色々な事情で、寝ても覚めても研究のことを考えていることがなかなか難しくなってしまいましたが・・・・。

映画の中で、イタリアの飛行機エンジニアであるカプローニ伯爵が、ゼロ戦を作ったがかわりに妻を失った堀越二郎に言った言葉。

「創造的人生の持ち時間は10年だ。」・・・・「君の10年はどうだったかね」

人間が何かに100%打ち込める創造的時間は、10年かどうか知りませんが、それほど長くないでしょう。この領域はいよいよ後半を迎えます。この領域が終了する時に、「君の5年はどうだったかね」と訊かれた時、「とても創造的な5年でした」と言えるようにしたいものです。

大野 睦人

京都大学 ウイルス研究所 教授
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