2016年08月05日(金)

セントラルドグマあれこれ

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私の技・カイゼン術について書けと言われたが、良いネタを思いつかないので全然違うことを書くことにする。

先日東京で一般の人相手に講演する機会があった。ncRNAのことをついでに宣伝しようと考えて、廣瀬さんにイントロのパワーポイントを送ってもらった(中川さん泊さんにもお世話になった)。その中に、セントラルドグマの修正(図1)というのがあった。多数のncRNAが発見された今となってはDNA makes RNA makes Proteinというのは間違いで、DNA makes RNA often makes no Proteinが真実の姿である。うまいこというなと思って使わせてもらうことにしたが、これをきっかけにセントラルドグマのことを少し調べなおした。

正式には「分子生物学のセントラルドグマ(The Central Dogma of Molecular Biology)」という。ネットなどの情報(「ゆるぎないゆらぎ仮説」というブログを特に参考にさせていただいた)によれば、Crickが最初にセントラルドグマについて書いたのは、論文ではなく1956年10月のメモである。その中にセントラルドグマのような図が出てくるが、現在一般に流布している3本矢印のもの(図1左)とはずいぶん違う(図2)。

DNA makes DNAとDNA makes RNA makes Proteinの部分は図1と共通だが、その他に
 1) RNA makes RNA
 2) RNA makes DNA
 3) DNA makes Protein
を表す3本の矢印がある。

1)はRNAウイルスなどで知られているRNA複製を表すものであるが、ちょっと驚いたのは2)である。1970年に逆転写が発見され、その発見に対して後にノーベル賞が授与されたが、セントラルドグマの例外が見つかったからノーベル賞を取れたのであろうと私は漠然と考えていた。しかし、Crickは逆転写を予見していたのである。全く私の勉強不足も良いところである。

また3)のように、CrickはなぜかDNAから直接タンパク質ができ得ると考えていた。実は、大腸菌などの破砕液に一本鎖DNAを入れるとタンパク質ができるという報告がある。特に、Neomycin存在下ではこの反応が加速するらしい。比較的最近では、2002年に著名な大島泰郎先生の研究室からも報告がある。この反応に生理的な意義があるかどうかは不明である。Crickがこの試験管内の反応のことを知っていて3)を入れたのか、すべてCrickの思考実験なのかは私の知るところではない。セントラルドグマは論文としては1970年のNatureに発表されているが、このメモとほぼ同一の図(もちろん手書きではない)が載せられている。

疑問として残るのは、なぜ3本矢印のセントラルドグマが一般に流布したのかということであろう。一説によると、Watsonが教科書を書く時に単純化したのが始まりであるという。他の教科書などに取り上げられて連鎖反応的に広まったのかもしれない。マスコミの力は本当に恐ろしい。

大野 睦人

京都大学 ウイルス研究所 教授
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