2018年01月04日(木)

科学は世界だ

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2017年も、あっという間に過ぎてしまいました。去年は、国際RNA Society Meetingのオーガナイザーを仰せつかったこともあり、2度のプラハ訪問をはじめ、海外出張の多い年でした。特に5月は、トロント(カナダ) ⇒ バルバドス(カリブ海の島) ⇒ 釜山(韓国) ⇒ ジュネーブ(スイス) ⇒ プラハ(チェコ)と、人生で最も多くの国を訪れた1ヶ月でしたが、その間に舞子で開催された本領域の領域会議もはさまって、研究室や家にいることがほとんどありませんでした。もともと時差には弱い体質なので、5月は常に眠いままの状態で過ごしましたが、それでも様々な国で様々な研究者と交流して議論を深めることは、何にも代えがたく貴重であると感じています。

研究室に一人こもって黙々と実験を行うという科学者のステレオタイプとは異なり、科学が人と人とのコミュニケーションに大きく依存するものであるということは間違いありません。特に、あまりにも複雑な現在の生物学においては、1人の人間が成し遂げられることは本当に小さなものであり、研究室の中においても外においても、どのように人々と交流し協力するかが成功の鍵であるといっても過言ではないかもしれません。

研究室の中に目を向けてみると、いつもまわりの人達と良く議論し、自分自身の研究だけではなく、他の人の研究のことも把握できている人、困ったことでもほんの小さな発見でも、すぐに皆と話ができる人は、自然と大きな得をしているなと感じます。新しい知見や重要な問題は、日々研究室の中で生まれ続けているので、それらをうまく共有し、自分の研究に生かして行けることは大きな強みになると思います。

一方、研究室の外つまり世界中にも、興味を同じくする人々がたくさんいます。彼ら彼女らはある意味で競争相手であり、しかも自分たちよりも賢かったり多くのリソースを持っていたりするため、全く同じ事を同じようにやろうとしても、なかなか勝ち目はありません。ただ幸いなことに、問題設定の仕方や答えにたどり着く道筋は1つではないので、真っ向から競合することは意外に多くありません。むしろ、彼ら彼女らとは目的を共有する良い仲間として、オープンに情報交換や相互協力が出来る信頼関係を築くことができれば、結局は自分自身にとっても研究分野全体にとっても大きなメリットになると思います。RNAの研究分野は伝統的にフレンドリーであり、特にノンコーディングRNAの分野は新しく、若い人も多いので、激しい競争の中でも友好的に議論し、共に切磋琢磨して行ける雰囲気があると感じています。世界の色々な場所を訪れることができ、その土地土地に古くからの友人や、少なくとも名前は知っている(あるいは自分の名前を知ってくれている)人々が居てくれるということは、科学者の特権と言えるかもしれません。本当に重要な議論は、食事の際などの何気ない世間話の合間に生まれることも多く、やはり人と人との直接のコミュニケーションは大切だなと実感させられます。

この「RNAタクソノミ」領域も残すところあと1年あまりとなりました。ありがたいことに、本領域(+前身である「非コードRNA」領域)の国際交流活動のおかげで、海外の主要なノンコーディングRNA研究者は、ほぼ全員日本に来てくれたのではないかと思います。また、そこから生まれた情報交換や論文発表にまでつながった共同研究の例も(自分自身のことだけを考えても)たくさんありました。今年もこのような交流が引き続き行われ、研究分野全体としてさらに大きく発展していくことを祈ります。

泊 幸秀

東京大学 定量生命科学研究所 教授
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