2017年07月07日(金)

進路選択

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後期から公募班として参加させていただく事になりました、早稲田大学学振PDの福永津嵩と申します。本プロジェクトでは、近年私が開発した超高速RNA-RNA相互作用予測ソフトウェアRIblastを用いてlncRNA-mRNAの相互作用を網羅的に予測し、保存性や発現特異性を考慮する事で機能的相互作用部位を抽出するという研究を行う予定です。他の班員の先生方と比べると明らかに未熟ではありますが、先生方の研究レベルに伍する研究を行えるよう二年間頑張りたいと思います。よろしくお願いいたします。

さて今回のブログ記事のお題は「十年前の私、今の私」という事ですが、十年前の私というと齢はわずかに18歳の大学一年生で研究活動は全く始めておらず、大学後期課程においてどの学部・学科に進学するかを悩んでおりました。今でこそバリバリDryのザ・情報系という立場で研究を進めていますが、大学受験では生物・化学選択、大学前期課程の時期は完全に生物系(しかも動物行動学のようなマクロな生物学)に興味があり、プログラミングは触った事もありませんでした。そんな私がバイオインフォマティクスとシステム生物学を専攻する学科である東大理学部生物情報科学科に進学したのは、「生命情報データが大量に産出されるこのご時世、今後の生物学でバイオインフォマティクスは一層重要性を増していくに違いない」という卓見を備えていたから、というわけでは残念ながら全くありません。進学先を決めた理由は主に二つで、一つは生物情報科学科は新設されたばかりであり進学すれば自分が一期生になれるというミーハー根性とノリ、二つは当時の私は行動生態学のような数学とマクロな生物学の融合に興味を持っており、生物情報科学科はそのような事も学べるのであろうという勘違いになります。あまり積極的な理由ではなく恥ずかしい限りです。。まさか10年後にゲノム情報学やRNA解析を行っているとは露ほどにも考えていなかったと思います。(なお動物行動研究は結局やってみたかったので、情報解析をベースにした研究を現在進めています。中川研の横井さんとは動物行動研究でもRNA研究でも会議でお会いする事があり少しびっくりしています。)

折角の機会なので生物情報科学科の紹介をさせていただくと、その名の通り「生命科学」と「情報学」の両方を学ぶ学科になります。生命科学系の学生実験としては、タンパク質の配列決定や構造決定などの生化学実験、大腸菌の形質転換などの分子生物学実験、マイクロアレイ・次世代シーケンサーなどの生命情報科学実験を行っています。今考えますと、2009-2010年の段階でマイクロアレイや454シーケンサーを使った学生実習を行うなど極めて破格な事だと思いますが、当時の私はそのありがたみを分からずに、ぽえ〜んと実習を行っていたので完全に豚に真珠状態でした。(しかし、あの時に少しでもハイスループット実験をやっていた事は現在の私の研究の考え方に強い影響を与えているとは思います) 今となっては、MinIONを取り入れた学生実習が近い将来あらゆる大学で行われるようになってもおかしくないような気がしますけれども。一方で、情報科学系の学生実験としては、BLASTなどのソフトウェアを使う授業ではなくソフトウェアを作る演習が展開され、BWAやgene findingのコアアルゴリズムを作成したり、(純粋な)情報科学科の学生と合同でカーネルというOSの中核部分を触ったりしています。(なおBLASTを初めて動かしたのは修士二年のときで、NGSの生データを触った事は今の所ありません。) これはプログラムをほとんどせずに進学してきた私にとってはかなり大変な演習で、正月返上で必死にプログラミング課題を解いていた事が思い返されます。この時に苦労してプログミング力をある程度身につけた事が現在の私の研究能力の礎になっているので苦労しておいてよかったと今では思うわけですが。研究室を選択する際に実験系ではなく情報系を進学した理由は、悲しい事に全く実験ができなかった事が原因です。たとえば、何を言っているんだこいつはと思われるでしょうが、なぜかマイクロピペットを使った正確な計量があまりできませんでした。。最初は部屋全体を巡回していた助教の先生が、途中から私の後ろに常駐してアドバイスし始めるといった事象が何度か起こると、「あぁ私は多分実験には向いていないんだな」と悟らされます。もちろん、実験に向いていない事が情報系に向いている事を意味する訳では全くないのですが、元々数学には興味があったこともあってか今の所なんとかやっていけているようです。

私が一期生として進学した生物情報科学科も、そろそろ十期生を迎える事になります。この十年の間に研究者における生命情報学のあり方・捉えられ方がどのように変化したかを論ずるのは力量不足なので差し控えます(激変しているとは思っています)が、少なくとも、生物系志望の学部生や実験系の修士課程でも「Pythonを少し書くくらいは出来ます」という学生は私の時より増えてきているように感じます。これは、次世代シーケンサーが生物学に与えた影響の大きさという原因もあると思いますが、むしろプログラミングが重要であるという考え方が人口に膾炙した事の方が大きな原因かもしれません。最近では習い事としてプログラミングを学ばせるという事もあるようですし・・。今後一層"moisture"な学生が増え指導的な立場に立つうちに、生命情報学という分野の捉え方がまた今からも大きく変わっていく事が予想されますが、ヒトゲノム解読時代からのその意識の変遷は、科学史という学問的立場から見ると興味深い研究対象であるような気がします(素人なので本当の事はわかりません)。生物情報科学科が四十期、五十期生を迎える頃には、改めて大学に入り直しそのような文系的な研究ができる分野に進学してみたい気がしています。

福永 津嵩

早稲田大学 理工学術院 学振特別研究員(PD)
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