2019年01月04日(金)

ベンチャーはアセルナ

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昨年私は、RNAバイオベンチャーを設立いたしました。いい機会なので今日はその経緯について書きたいと思います。

 ベンチャーと聞いて私の頭にまず思い浮かぶ会社は、ペプチドリームです。その名を初めて耳にしたのは今から約14年前でした。

 「ヒロ(当時のボスである菅裕明先生)がベンチャー作るらしいよ。社名はPeptiDream(ペプチドリーム)だってwww」と元ラボメイトと若干ネタにし会話したのを覚えています。 アメリカの菅研にいた当時の私は生命の起源とRNAワールドに強い興味があり、tRNAにアミノ酸を転移させる人工RNA酵素 (リボザイム)を試験管内で進化させる研究を進めていました(詳細はこちら)。私が初めに進化させたリボザイムはフェニルアラニン誘導体をtRNAに転移でき、その後ラボに加わった村上裕さん(現名古屋大学教授)が様々な非天然アミノ酸をtRNAに転移する「フレキシザイム」へと進化させました。このころからヒロは、「この技術を元にベンチャーをつくる!」と言っていたのですが、「非天然アミノ酸がなんでベンチャーにつながるんすか?」とピンときませんでした。それより生命の起源におけるRNAの可能性をさらに追求したいと思っていましたので、「そっちにはあまり興味ないっす」みたいな生意気な態度を取ってしまいました。今思えば、あの時の返事次第で私の人生は大きく変わっていたのかもしれません。皆さん、私を反面教師にして、人生の選択は慎重に。

 その後のペプチドリームは、皆さんもご存じの通り飛ぶ鳥を落とす勢いで、日本のバイオベンチャーの成功例としてよく取り上げられています。このように学生の頃からラボの技術を起点とするベンチャー設立を目の当たりにしていましたので、いつか自分も研究室発の技術でベンチャーをつくりたいな、と考えていました。

 その後、京都大学iPS細胞研究所で自分の研究室を立ち上げました。RNAを使った技術を再生医療や創薬につなげたいと考え、まず開発したのがマイクロRNAを指標にして、色々な細胞を選別できる「RNAスイッチ」技術です。この研究は、初期メンバーの遠藤慧君(現東京大学助教)が大きく貢献してくれました(詳細はこちら)。再生医療の分野では、iPS細胞から神経細胞や心筋細胞など色々な細胞の作製が試みられていますが、細胞の不均一性が課題の1つとなっています。我々のベンチャーではこの課題をRNAで解決しようとしています。幸い良き創業者メンバーとの出会いがあり、昨年4月からベンチャーが立ち上がりました。最後まで決まらなかったのが社名です。最初は「細胞とRNA」をキーワードに、「CellRNA (セルナ)」という名を友人が考えてくれました。最終的に、セルナの上に「ア」をつけて「アセルナ (AceRNA)」になりました。AceのRNA(切り札のRNA)の意味も込めています。「再生医療はしっかり、でも焦らず進めよう」という山中先生の言葉を聞いたのもヒントになりました。(おそらくうちのラボでは「アセルナだってwww」と言われてそうですが)

 今回特にありがたかったのは、スタートアップに対する大学支援の強化です。京都大学の場合、iCAPというベンチャーキャピタルが起業構想時から会議に参画、現創業者メンバーも紹介してくれました。ベンチャー設立に興味ある方は、是非相談するのがいいと思います。最後に、本領域で取り組んでいる研究も、「RNAスイッチ」とは別の面白い技術になると期待しています。こちらの事業化も現在目指しているところです。基礎研究と産業応用の両方に関わることができるのは、大学研究者の醍醐味だと思います。基礎と応用は車の両輪です。どちらもしっかりと回せるように、今年はさらに気を引き締めて、精進していきたいと思います。

 最後になりましたが、本領域に2年前から公募研究で参加させていただき、いくつかの共同研究も立ち上がり大変感謝しております。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

齊藤 博英

京都大学 iPS細胞研究所 教授
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