2016年05月07日(土)

キット賛歌?

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最近の学生は「キット」を使うから原理が解らなくてね。
私なんて昔じぶんの「キット」作ってたもんね。
「キット」なんてカネかかるばっかりで。

という愚痴をこぼされる年配、いや、妙齢、いやいや、働き盛りの先生方、よくおられるような気がします。実際、僕が留学中はコンピテントセルなどは下手をすると一本1000円ぐらいで売られていたりしましたから、気合を入れて自作のコンピを1000本分注して、100万円丸儲け!!!となんか意味もなく豊かな気分になって、ちょっと奮発してカレーとKing FisherでRegent streetのガンジーでひとり打ち上げしていたのは良い思い出です。

しかしながらその一方で、キットのおかげで試薬を一セットそろえる手間が省けているのは事実ですし、何よりも失敗が少なくなっているのは大きいような気もします。次世代シークエンサーのライブラリー作りに必要な試薬、実際は個別に買い揃えたほうがずっと安いとかいう話を聞いたこともありますが、とりあえず自前で作ってみようか、という時に最初から試薬を買い揃えるのは大変ですし、たとえば全部揃えたら100万円で100回分できる、でも100回はやるはずはない、キットで揃えたら10万円で2回しかできないけど、2回、せいぜい3回しかやらない、ということが事前に分かっているのであれば、キットを2つ買ったほうが経済的です。ただ、感情としては、もしかしたら10回やるかもしれない、実験にはまりまくったら20回やるかもしれない、それなら自前で揃えてしまおう、という方向に、傾きがちです。というか、そういう恐怖感に常に突き動かされているのが研究者、という言い方もできるかもしれません。

似たようなことは、「試薬のまとめ買い」でも言えるかと思います。年明けごろから頻繁に来る「キャンペーン実施中」のパンフレット。そんなキャンペーンするなら最初っから安く売ってくれい!と思うのはごく自然な感情だと思いますが、それはさておき、これ使うよね、今年これだけ使ったよね、2年分まとめ買いしたら50万円も節約!ありがとうキャンペーン!!!と、節約の甲斐あって年度末に予算に余裕ができた時は、まとめ買いをするのが恒例行事になっているラボもあるのではないでしょうか。実際、僕も理研で初めてラボを持った時にスタートアップ費でBig Dye Terminatorを数十万円ぐらいまとめ買いして、その後ずうっとストックが残っていて、これに関しては10年以上予算を心配しなくても良い、ということで大変安心、そして重宝したような気がします。

ただ、最近、とみに思うのは、
「結局、トータルで考えるとほんとに得してたのかな?」
ということです。

「キット」に頼らず、「まとめ買い」を有効に活用することでコストカットを徹底的に図った時と、全部キットで、まとめ買いをしない時と、同じ予算があったとしてどちらが研究のアウトプットとして高いものが出せるのか。こういう調査はなされたことはないと思いますし、エビデンスとして出せるものは何もないのですが、「最先端」というものが試行錯誤の結果得られるものであるとするのであれば、「キット」化されたものはすでに「最先端」ではないわけですし、まとめ買いして得する類の実験も、最先端とはちと違う意味合いが出てくるような気もしています。「キット」を使うなと言うのは言うに易しで、学生実習とかであれば一理あるのですが、よくよく考えてみると普段の「研究」で「キット」が使えるのにあえてそれを使わないというのは実はあまり胸を張れることでもなくて、「キット」化されているぐらい技術的に汎用化されているものに対していちいち時間を費やすのはそれこそムダ!!という考え方があっても良いような気もします。

わしが現役の頃は酵素を精製していてなあ、、、
わしが現役の頃はイエローチップを洗濯してしてなあ、、、
わしが現役の頃はキムワイプをもういっぺん洗って乾かしてなあ、、、

と貧乏自慢というのは飲み会のネタとしては最高に楽しくて笑えるのですが、研究現場でそれを日々やっている身からすれば、笑い飛ばせる話でもありません。もしキットを使うことで時間をカネで買うことが出来るのであれば、学生さんにもポスドクさんにも、もっと別のことを考えてもらいたい、というのは誰もが思うことではないかと思います。そう、買うだけのカネがあれば。でも、そんなお金なかなかないです。はい。

 

 

そして100年後。

「わしが現役の頃は実験計画は自分で考えていてなあ、、、」

 

 


囲碁でも将棋でもAIというかコンピュータがプロを圧巻している現状を見ると、結構シャレならんですね。そうならないように、キットで済ませられるところはキットで済ませようという考え方にも一定の理解を示さなくてはいけないなあ、と、最近よく思う次第です。原理がわからないのなら、そんなものは教科書を読むなり、実習でやるなり、下宿での秘密実験でやれば良いだけですから。

話は変わりますが、この5月1日より、長らくお世話になった理研を離れ、北の大地札幌は北大でお世話になることになりました。まだまだラボのセットアップには時間がかかりそうですが、最初に皆でやる実験はもちろん、コンピ作りです。キリッ!!

中川 真一

北海道大学薬学研究院 RNA生物学研究室

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2 コメント

  • コメントリンク なかむらあきら 2016年05月07日(土) 投稿者: なかむらあきら

    中川さん、

    新天地でのますますのご活躍、大いに期待しております。ラボのセットアップがスムーズに行くことを(そして、決して地震など来ないことを)祈念しております。

    「ワシの若い頃は...」の世代ですが、現役です。キット化についてはおおむね同意しますが、メーカーによってキットの質・コストに大きな差があることは意外と理解されていないような気がします。それこそプラスミドmini prepやゲルからのDNA抽出キットでも、メーカーによって性能も性能も全く違いますよ。本当は、department単位で情報を共有して年間発注量を見積もった上で、メーカー・業者にディスカウントを相談する(発生研でもできていないのですが...)とか、コラボを積極的に進めてあまり使わない試薬については初めのうちはコラボ先に頼る、ということが重要な気がします。

    一方、ハエへのTFなどになると>20 kbのプラスミドの作成が普通になります。こういった場合、コンピテントセルでは当たりが取れず(市販のDH10betaを使っても)、エレポで入れるとあっさり取れる(しかしルーティンのTFはもちろん自作コンピテントセル)など、キットに"頼りすぎている"とケールバイケースでの使い分けの感覚が習得できなくなるような気がします。そういった感覚の習得が、特に大学院時代の教育としては重要な気がします。CRISPR-Cas9でも高い経費を払って業者にお願いすることになっていたり...。

    お金のあるラボなら気にする必要もないのかもしれません...。また、ある程度の額(

  • コメントリンク 中川 真一 2016年05月08日(日) 投稿者: 中川 真一

    コメントありがとうございます。そうですね。深い基礎知識がないと、正しい選択ができなくなりますね。大学院生の教育と研究の効率化のバランスは難しいところです。OSを常にアップデートしておかないと様々な脆弱性が問題化するように、普段の仕事に関しても定期的に情報交換してアップデートしていくことが大切なのかな、という気がしています。いずれにせよ、若い世代には自分ができなかったことをやってもらいたいですし、本当に頭と時間を使わなければいけないところにエフォートを注ぎ込める環境を作ることを目指します。

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