スプライシングバリアントの発現パターンを生体内の細胞レベルで見ていくと、意外なパターンに出くわすことがあります。左の写真もそんなひとつ。
これは線虫C. elegansのアクチン結合タンパク質トロポミオシンの新しいエクソン7a(赤色)の選択性を見たものです。全身でレポーターを発現させたら鼻先だけ赤い。そこで、体壁筋だけで発現させたらやっぱり鼻先だけ赤い(左の写真)。それで、体壁筋の中でも頭部から2列8個の筋細胞だけで特異的にこの新しいアイソフォームが出ていると納得したわけです。
トロポミオシンは進化的によく保存されたタンパク質です。哺乳動物では4個の遺伝子があり、それぞれが複雑に選択的スプライシングを受けて多数のアイソフォームを発現します。
ところがっ、
前職の理研在籍時から続いていた仕事の最後の宿題、細胞タイプ特異的なエピゲノム修飾解析の論文をようやくまとめることができました。ChIPなどを行ったテクニカルスタッフの水戸さんのWetの実験手技は正確無比だし、floxマウス作製をお願いした神戸理研のLargeチームはコンビニ感覚で変異マウスを作ってくださるし、神戸理研の工樂さんのところのライブラリ作製からシークエンスのクオリティーと安定感は抜群だし、和光理研の若きエース岩崎さんのデータ解析の視点はド的確で図も綺麗だし、僕はマウスの解剖係、と、それぞれのスキルを活かした完璧な分業体制のおかげで、とても良い仕事に仕上がったなあと自画自賛しております。ほんとうに、持つべきものは良き共同研究者です。はい。
新潟大学の矢野と申します。
今年度、発表したQki5に関する論文について成果報告、裏話を寄稿させて頂きます。RNAタクソノミのHPやプレスリリース等でも記しているので、そちらも合わせて参考にして頂きながら、今回はまた少し違う観点から足跡を残したいと思います。皆様、いろんな論文を読んでいて、この英文、言い回し、はたまたこの単語、かっこいいなあ、真似してみたいなあと感じることありませんか?わたしは、メモとして集めて、こっそり自主学習の学生発表のお題に使ってみたりして楽しんでいます。今回のブログでのキーワードは、”unbiased”です。これって、わたしの勝手な感覚ですと、2006年以降に散見しだしたような気がします。中には、ここで使う?みたいなのもあったりもします。また、2011年にゴードンカンファレンスにて自身のポスターセッションで、”unbiased”談義で鼻息の荒い大学院生(ポスター賞獲ってたし、偉くなってそう…)と議論しあうこともあったくらい大事なサイエンスにおけるキーワードのようです。
アガサクリスティの「蒼ざめた馬」の冒頭シーン。一人の男をめぐって二人の女性が掴み合いの喧嘩をする強烈なシーンがありますが、そういうシーンはドラマではよくある展開ですが、現実世界ではほとんど見たことはありません。都市伝説みたいなものだと思っていたら、30年ほど前、某旧友をめぐって某女子校で似たようなシーンが展開されていたとかいう話をつい最近友人より聞きまして、そうか、そういう世界もあるんだなあと非モテ系の僕としてはちょっぴりというかだいぶ羨ましい、とかなんとか言っていると奥さんにキッと睨まれそうですが、プライベートではともかく、仕事で使っているモデルマウスが引っ張りだこというのは文句なしに嬉しいものです。そう。国内外からリクエスト来まくりの引っ張りだこのモテ男くん、Neat1 KOマウスの話です。昨年、今年と、このモテ男くんを使ったガン研究の論文がChris MarineさんとLaura Attardiさんのところから発表されました。これがややこしいことに一見すると正反対の結論。片や、Neat1がなくなるとガンになりにくい。片や、Neat1がなくなるとガンになりやすい。一体どっちなの?ということなのですが、両グループの共同研究者として、僕なりの理解をちょっとまとめてみようと思います。
北大 廣瀬研の特別研究員の中條と申します。
パラスペックルの骨格分子であるNEAT1長鎖ncRNAが、通常のRNA抽出法ではほとんど水層に抽出されずにタンパク層にトラップされていたことを見出し、そこを出発点にした論文を最近報告することができ、中川先生から、研究が始まった経緯について書いてと依頼され、この記事を書く機会をいただきました。
新しい研究が始まる経緯を大別すると、①仮説やビジョンに立脚したプロジェクト型研究と、②偶然出くわしたことを基点としたセレンディピティ型研究に分けられると思います。 今回の私の研究は、典型的な後者ですが、そのまっただ中にいた当人にとっては、当たり前にできるはずの実験がうまくいかない状況を何とかしようともがいて、虚空に手を伸ばし続けることで糸口をつかんだ研究でした。
領域前半、公募班としてお世話になりました、河岡です。
厳密には本領域のトピックとはずれるのですが、最近論文を発表したので、宣伝させてください。
筆頭著者は鈴木勉先生のラボ出身の北條くんです。RNA屋さんからの転身(?)!!
論文というのはその核心を捉えた時から実際の原稿の受理までには時間がかかるもので、衝撃のデータを目にして雷に打たれたように全身が痺れた瞬間であるとか、これだ!これだ!この技術さえあればうまくいくと世の中全てがバラ色に思えるような、新婚当時のウキウキした気分に勝るとも劣らぬ高揚した気分(今がウキウキしていないとは言っていません)は、数カ月、数年越しのクソ思慮深きレフリーとのバトルを終え枯れ果てた悟りの境地に入ってしまうと、今更どうこう話す気分にもなれないものです。でも、この論文だけは発表後も新婚当時のウキウキした気分が続いているので(今がウキウキしていないとは言っていません)、その馴れ初めから論文に至るまでを、3回シリーズで、、、いや、いつも分量が多くなりすぎるので、今回は読み切りでお伝えします。
当時の状況としては
1) FISH・免疫組織染色等では差が見られなかった。
2) 行動アッセイで弱いながら表現型が見られた。
3) スプライシング因子と相互作用しており、選択的スプライシングの変化が予想された。
4) 怒涛の発現マイクロアレイ、エクソンアレイ解析では何も差が見られなかった。
ということになります。4)でかなり金銭的にも精神的にも消耗したので「撤退」の2文字が頭によぎりましたが、そこは初恋のなせる技。子育て中の親鳥が餌を探し回るがごとく、ミーティングや学会に出るたびにこの状況を打破してくれるウルトラCに出会えないかと物色し、Ben BlencoweさんのNGSを用いた選択的スプライシング解析を聞いた時は、科学特捜隊が手も足も出ず苦しんでる中ようやく光の国からウルトラマンがやってきたような気がしました。ずん、ずん、ずん、と、だんだん大きくなってくるあれですね。
実際に宮川研にSonet君が出向いて行動解析実験をしてわかったことは、これまであれほど表現型が出ない出ないと言って苦しんでいたのに、とりあえず「統計的に差がある」データは、意外(?)とでてくることがわかりました。