【公募研究1】ヘテロクロマチンの凝縮構造を作り出すノンコーディングRNA群の解明

エピジェネティカルな遺伝子の発現制御の基盤となる高次クロマチン構造は、長鎖ノンコーディングRNA (lncRNA) にクロマチン制御タンパク質が結合することで作り出される、という例がいくつも知られています。その代表例、女性の不活性化されたX染色体は、XIST lncRNA依存的にバー小体と呼ばれる凝縮したクロマチン構造(ヘテロクロマチン)を形成します。私たちはXISTを足場とするこの凝縮構造が、HBiX1-SMCHD1タンパク質複合体によって行われていることを見いだしてきました。HBiX1-SMCHD1は、X染色体以外でもゲノムのさまざまな領域に結合していることから、HBiX1-SMCHD1はある一群のlncRNAを足場として、「ミニバー小体」とも呼べる凝縮クロマチン構造を核内のいたる所で形成していると考えられます。本研究では、この一群のlncRNAをHBiX1-SMCHD1複合体を基軸に同定することで、高次クロマチン構造におけるncRNAの機能を明らかにすることを目指します。

長尾 恒治 (NAGAO, Koji)
  • 北海道大学
  • 先端生命科学研究院
  • 講師

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【公募研究2】立体構造から理解するRNAタクソノミ

RNAサイレンシングとよばれる遺伝子発現抑制機構は原核生物から高等真核生物まで保存された重要な生命現象のひとつです。RNAサイレンシングの共通原理は、非コードRNAが特定のタンパク質とリボヌクレオプロテイン複合体を形成し、ガイド分子として機能することですが、その分子メカニズムは生物種によって多種多様です。例えば、真核生物ではArgonauteタンパク質がsiRNA、miRNA、piRNAといった小分子非コードRNAと複合体を形成し、標的遺伝子の分解や翻訳抑制を引き起こします。一方、原核生物においてはCasタンパク質がcrRNAとよばれる非コードRNAと複合体を形成し、外来核酸からの生体防御を担っています。本研究では、RNAサイレンシングの中核因子であるリボヌクレオプロテイン複合体の結晶構造を決定し、その多様な作動原理を原子レベルで解明します。

西増 弘志 (NISHIMASU, Hiroshi)
  • 東京大学
  • 理学系研究科
  • 助教

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【公募研究3】代謝酵素遺伝子ノンコーディングmRNAの食餌による発現制御機構の解明

真核生物のタンパク質をコードする遺伝子には、品質管理機構によって速やかに分解されてしまうノンコーディングmRNAを、選択的プロセシングにより常時産生しているものがあります。私たちは、mRNAの品質管理機構に異常を示す変異体線虫のトランスクリプトームを野生型と比較することにより、そのようなノンコーディングmRNAを体系的に探索しました。そして、アミノ酸代謝酵素をコードする遺伝子の一部がノンコーディングmRNAを発現すること、さらに、選択的スプライシングによるこれらのノンコーディングmRNAの発現比率が、食餌となる細菌の種類により異なることを見出しました。この現象は、ハウスキーピング遺伝子であるアミノ酸代謝酵素の発現量が食餌や体内代謝環境に応答したノンコーディングmRNAの産生により変化する未知の個体レベルでの制御機構の存在を示唆しています。本研究では、アミノ酸代謝酵素遺伝子が食餌の種類に応答して選択的スプライシングによりノンコーディングmRNAを積極的に産生するための作動エレメントと作動装置の実体を解明することを目指します。そして、アミノ酸代謝酵素の発現がノンコーディングmRNAの産生を介して食餌により制御されることの生物学的意義を探ります。

黒柳 秀人 (KUROYANAGI, Hidehito)
  • 東京医科歯科大学
  • 難治疾患研究所
  • 准教授

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【公募研究4】非コード小分子RNAよるエピゲノム制御の作動ダイナミクス

個体発生の過程では、エピゲノム制御により遺伝子発現プロファイルがダイナミックに変化します。そのなかで、その転移が生命の次世代継承にとっての脅威となりうるトランスポゾンなどを選択的に抑制する必要があります。これを担う因子として、piRNAと呼ばれる、生殖組織で発現する非コード小分子RNAが知られています。piRNAによるトランスポゾンの抑制は、トランスポゾン領域のヘテロクロマチン化を介したエピジェネティックな制御であると考えられていますが、その分子機構については未だに明らかになっていません。そこで、piRNA-Piwi複合体によるトランスポゾン抑制に関連する因子群の同定やエピゲノム解析に加え、試験管内再構成系を用いて、核内でトランスポゾンをエピジェネティックに制御するpiRNA「作動装置」の作られ方および働き方の理解を目指します。クロマチン状態とpiRNA-Piwi複合体とのリンクを明らかにすることで、非コードRNAによる新たなクロマチン制御メカニズムを解明することができると期待しています。

岩崎 由香 (IWASAKI, Yuka)
  • 慶應義塾大学
  • 医学部分子生物学教室
  • 助教

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【公募研究5】エンハンサーRNAの体系的分類と作動原理に関する統合的研究

エンハンサーは、遺伝子の時空間的発現パターンを規定する重要な非コードゲノム領域です。わたしたちヒトのゲノムにコードされるタンパク質コード遺伝子が2万数千個であるのに対して、これらの遺伝子の発現を調節するエンハンサーの個数は10万個以上と言われています。近年の大規模シーケンス技術の発展により、ゲノムのどこにエンハンサーとして機能しうる領域があるかを一挙に同定できるようになりました。一方で、個別のエンハンサーの機能を解明することは、様々な技術的制約のために容易ではありません。生命の設計図であるゲノムの読み出し方を規定するエンハンサーの機能をひとつひとつ明らかにすることは、ゲノム科学の究極のゴールのひとつとも言えます。ごく最近になって、エンハンサーRNA (enhancer RNA: eRNA)と呼ばれる非コードRNAがエンハンサーから転写されており、エンハンサー活性の制御に関与していることが分かってきました。ところが、eRNAの全体構造の体系的な特徴付けは未だなされておらず、eRNAがエンハンサー制御のどの素過程で機能しているかは不明です。本研究では、大規模シーケンスとインフォマティクスを活用して、eRNAのゲノムワイドな特徴付けを行います。また、ゲノム編集技術を活用して、eRNAの作用機序を解明します。

河岡 慎平 (KAWAOKA, Shinpei)
  • ATR
  • 主任研究員
  •  

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【公募研究6】lncRNAのエピゲノム制御に基づく大腸癌形成能獲得機構の解明

lncRNAが発生や幹細胞性の維持、癌化に重要な役割を果たすことが明らかとなってきました。私たちは、大腸癌の腫瘍形成能を制御する新規lncRNAとしてUPAT (UHRF1 Protein Associated Transcript) を同定しました。また、大腸癌において、UPATがエピゲノム制御因子であるUHRF1と結合することを見出しました。さらに、UPATがβTrCP依存的なUHRF1のユビキチン化を阻害して安定化させることによって、大腸癌の腫瘍形成能を維持していることを明らかにしました。しかし、UPAT -UHRF1複合体としての機能については、未だ不透明のままです。UHRF1は、DNAのメチル化やハイドロキシメチル化、及びヒストン修飾を認識して転写を制御することが知られています。今後は、UPAT -UHRF1複合体によるエピゲノム制御を介した転写制御機構を明らかにすることによって、UPAT -UHRF1複合体がもたらす大腸癌形成能維持の分子機構及び生理的意義を解明することを目指します。

谷上 賢瑞 (TANIUE, Kenzui)
  • 東京大学
  • 分子細胞生物学研究所
  • 助教

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【公募研究7】表現型に性差を示すlong ncRNA Fat60 KOマウスの機能解析

近年、哺乳類ではタンパク質をコードしないnon-coding RNA(ncRNA) が発生、分化、病気などの生物現象に深く関わっていることが明らかになりつつあります。この内200塩基以上の長いncRNA(long non-coding RNA, lncRNA)は哺乳類の発生に必須な「ゲノムインプリント」や「X染色体の不活性化」等の現象に関与することから注目されていますが、個体レベルで生理機能が明らかになっているものは稀であり、その役割の解明が求められている状況です。これまで我々はゲノムインプリントを受けて父親由来のX染色体からのみ発現するlncRNAとしてFat60を同定することに成功しています。Fat60の機能を調べるためKOマウスを作製したところ、ほぼ雌の個体でのみ異常が観察され、雌雄間で表現型の性差が見られることを突き止めました。本研究では、KOマウスを用いて①Fat60 lncRNAの生理機能、作用機序の詳細を明らかにし、②なぜ表現型が性差を示すのか?について仮説を立て検証したいと考えています。生理機能を示すFat60 KOの解析は、解明の遅れているlncRNAの作用機構を理解するうえで重要な手がかりとなると期待されます。

小林 慎 (KOBAYASHI, Shin)
  • 東京医科歯科大学
  • 難治疾患研究所
  • 非常勤講師

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【公募研究8】核内足場クロマチン構造を介したncRNA, IPWの作動機序の解明

X染色体の不活性化機構に重要なXistやゲノムインプリンティング制御に重要なLIT1, Airなどに代表されるノンコーディングRNA(ncRNA)は,染色体ドメインレベルで周囲の遺伝子発現を制御しています。 これまでの研究から,それらの作用機序は多岐にわたり,XistのようにcisにX染色体上に局在し,染色体全体を不活性化に導くものもあれば,LIT1のようにある特定の局所な染色体領域にG9aなどのヒストンメチル化酵素複合体をリクルートするものまで様々です。最近の生化学的解析から,PRC2複合体などのncRNAと会合するタンパク質の実態は徐々に明らかにされつつありますが,ncRNAが如何に特定の局所な染色体領域にのみ作用するかについては未だ明らかにされていません。そこで,本研究ではncRNA, IPWが遠位の染色体領域に作用するのに必要な足場クロマチン(作動装置)の構築機構と,それに作用するncRNA, IPWの配列(作動エレメント)を堀家ら独自のヒト染色体工学技術と昨今のゲノム編集技術CRISPR/Cas9システム,及びshRNAライブラリースクリーニングを駆使して明らかにしたいと考えています。

堀家 慎一 (HORIKE, Shinichi)
  • 金沢大学
  • 学際科学実験センター
  • 准教授

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【公募研究9】非コードRNAとの結合を介したMediator複合体による転写制御機構の解明

近年の網羅的解析により、ゲノムの80%以上の領域からRNAが転写され、そのほとんどがタンパク質をコードしない非コードRNA (ncRNA)であることが明らかとなりました。その多くは依然として機能不明ですが、一部は転写制御に関与していると考えられます。しかし、ncRNAと転写制御因子との結合様式や作動様式が不明瞭なものが多く、機能が解明されたものはごく一部に限られています。Mediator複合体は転写開始時にプロモーター領域にリクルートされる転写制御因子であり、MED12サブユニットを含むキナーゼモジュールが機能上中心的な役割を担っています。近年Mediator複合体は、MED12と長鎖ncRNAとの結合を介して、転写を促進することが少数例で報告されました。しかし、結合するncRNAの種類や規模など未解決点も多いのが現状です。このため本研究では、Mediator複合体に結合するncRNAを網羅的に同定し、その性状からMediator複合体の機能を推定し、実験的な検証を通して、ncRNAとの結合を介した転写制御の分子機構を詳細に解明することを目指します。

河原 行郎 (KAWAHARA, Yukio)
  • 大阪大学
  • 医学系研究科神経遺伝子学
  • 教授

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【公募研究10】ミジンコの性決定を制御する長鎖ノンコーディングRNAの機能解析

私達は、環境依存的に性が決定されるミジンコにおいて、オスの性決定遺伝子 dsx1 のプロモーター領域から dsx1 と同様にオス特異的に発現し dsx1 を活性化する lncRNA、DAPALR (dsx1 alpha promoter associated long RNA) を発見しました。 DAPALR を RNAi によりノックダウンすると dsx1 mRNA レベルが減少することでメス化が生じ、一方でメスで高発現させるとオス化が生じることから、DAPALR は dsx1 の転写活性化能を有していると考えられます。しかしながら、そのメカニズムは未だ不明です。そこで本研究では、 dsx1 の発現を正に制御する作動エレメントと作動装置を明らかにし、DAPALR による dsx1 の転写活性化メカニズムを解明します。本研究を通して、プロモーター領域から転写される lncRNA の新規の作用メカニズムの解明、性決定を制御する ncRNA タクソンの創造に繋がることを期待しています。

加藤 泰彦 (KATO, Yasuhiko)
  • 大阪大学
  • 大学院工学研究科
  • 助教

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【公募研究11】真核多細胞微生物の未分化維持に関わる長鎖非コードRNAの動態追跡

形成体(オーガナイザー)の進化的な起源はよく分かっていません。原始的多細胞生物である細胞性粘菌の発生中にも形成体の活性がみられ、STATaという転写因子がその機能に関わっていることが知られています。細胞性粘菌に最も多量に存在する長鎖非コードRNA(non-coding RNA)であるdutA RNA はSTATa の活性化を調節して子実体形成を抑えています。子実体形成以前の発生段階は可逆的で未分化状態に戻ることが可能です。このことから、dutA は形成体の機能を調節して未分化状態の維持に関与すると考えられます。本研究では、dutA RNAがどのような作動装置として機能するのか、RNA の3′末端にMS2 リピート配列を導入した融合RNA を発現させて、そこにMS2-GFP 融合タンパク質も発現させて結合させることで、ハイブリダイゼーションによらない汎用的なRNAイメージング技術を確立します。これにより、dutA 遺伝子のリアルタイムな転写のオンオフ、局在変化や消失などRNAそのものの動態を追うことを可能にし、dutAに代表される長鎖非コードRNAが形成体においてどのような作動装置として分化を制御しているのか、その機構を解明することを目指します。

川田 健文 (KAWATA, Takefumi)
  • 東邦大学
  • 理学部生物学科
  • 教授

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【公募研究12】lincRNAとmiR2118によるイネの新しい生殖メカニズム

本研究では、イネ生殖non-coding ncRNA (ncRNA)を軸に、生殖細胞の時空間制御を伴ったncRNAによる生殖メカニズム解明に挑みます。小宮らは、生殖期特異的に非コードゲノム領域から発現するイネの771種のlarge intergenic non-coding RNA (生殖lincRNA) を同定しています。これら生殖lincRNA内には、microRNA (miR2118) が認識する共通配列が存在し、miR2118切断を介して、最終的に、small RNAが生成されます。これら生殖lincRNAを介した生合成経路が明らかとなりましたが、生殖lincRNAやmiR2118の機能、及び、700カ所に及ぶ非コードゲノム領域からの生殖ncRNAの一斉発現のメカニズム等、中核部分は未解明です。本研究では、ゲノム編集技術を用いて多系統変異イネを作出し、生殖lincRNA/miR2118機能を解明します。さらに、生殖lincRNA相互作用因子の同定、及び、生殖lincRNA非コードゲノム領域群の三次元核内動態を解析し、生殖ncRNA-ゲノム研究による未知の植物生殖機構解明を目指します。

小宮 怜奈 (KOMIYA, Reina)
  • 沖縄科学技術大学院大学
  • STG
  • アソシエート

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【公募研究13】動原体機能障害で発現するノンコーディングRNAの意義

染色体の分配過程において、動原体は重要な役割を担う構造体です。この動原体が構築されるセントロメア領域には、特異的なクロマチン構造が存在すると考えられていますが、それがどのように維持され、動原体構築の基盤となる場として機能しているのかについてはまだ良く分かっていません。私たちは、動原体構築の障害(Kinetochore Defect)に伴ってセントロメアから特有な約150b のノンコーディングRNA (kdRNA)が転写される現象を見いだしました。本研究では、ニワトリDT40細胞を使用した細胞生物学的手法を主な実験系として、各種動原体タンパク質のノックアウト細胞株や染色体工学的手法により作製した人工動原体を活用して、kdRNA が転写される仕組みとその生物学的意義を明らかにすることを目的とします。

堀 哲也 (HORI, Tetsuya)
  • 大阪大学
  • 大学院生命機能研究科
  • 准教授

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【公募研究14】RNA結合タンパク質結合サイト周辺のRNA構造モチーフ発見とデータベース開発

RNA結合タンパク質(RBP)は、非コードRNAやmRNAに結合し様々な細胞機能を活性化させます。一般にRBP結合サイトは、転写因子結合サイトに比べ、短く特異性の低い一次配列モチーフしか持たないことが知られています。これはRNAの局所構造が結合選択性に大きな役割をもつためであると考えられます。従って、結合サイト周辺のRNA構造の解析は、RBPの分子認識機構の解明に重要です。そこで、本研究では、RBP 結合サイト周辺に頻出する、塩基配列と二次構造からなる複合的な機能性RNAモチーフを、CLIP-seqデータから発見するための、RNAインフォマティクス技術の開発を行い、RBPのターゲット分子認識機構の解明を目指します。また、非コードRNA遺伝子の局所RNA二次構造に作用する進化選択圧の検出法を開発することにより、種間保存度の低い長鎖非コードRNAにおける、RBP結合領域の構造保存性の検証と、新しい機能性構造領域の発見を行います。このような一連の研究の過程で、既知のRBP-RNA相互作用に関する情報の収集・整理を行い、RBP-RNA結合に関するデータベースを公開します。

木立 尚孝 (KIRYU, Hisanori)
  • 東京大学大学院
  • 新領域創成科学研究科
  • 准教授

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