2016年09月20日(火)

初恋Gomafu(3)

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実際に宮川研にSonet君が出向いて行動解析実験をしてわかったことは、これまであれほど表現型が出ない出ないと言って苦しんでいたのに、とりあえず「統計的に差がある」データは、意外(?)とでてくることがわかりました。

特に、いろいろなアッセイで、活動量が若干増加する傾向が見えてきました。やたっ!と大喜びしたいところではあるのですが、早々大喜びできない事情もありまして、例えば記憶学習のテストをしてやると、肝心の記憶学習の数値そのものには変化はなく、ただ、その学習をしている間ちょっとだけ動き回る距離が長くなる、という表現型が見えてきます。不安行動をアッセイするようなテストでも同様、不安行動には差は出ないけれども、なんとなく落ち着きがないというか、ちょっとだけだけど、全般的な活動量が上がってくる。つまり、切れ味の良い特異的な表現型ではないのですね。これでは、どの脳領域、どの神経回路を調べて良いのかわかりません。

ただ、引き続き宮川さんのところで行っていた行動実験の方で面白いことが見えてきました。これは、基礎活動量が若干増加するような表現型を示すマウスはドーパミン経路の異常が考えられるので、ドーパミンのシグナルを薬剤で過剰に刺激してやった時に表現型が亢進するかもしれないと。というわけで、マウスに覚醒剤であるメタンフェタミンを投与して活動量のアッセイをしてみると、なんと!

Gomafu lncRNAノックアウトマウスは覚醒剤メタンフェタミンに対する応答性亢進を伴うマイルドな自発運動活性の上昇を示す

ジャジャーン。という感じで、マイルドな表現型からかなりvividな表現型に変身してくれました!興味深いことに、覚醒剤を一回だけ投与した時にはその差はそれほど大きくないのですが、覚醒剤を連続投与すると、応答性が異常に亢進してきます。

類似の表現型は九大の中山敬一さんがFEZ1ノックアウトマウスの解析で報告されていて、その論文で側坐核でのドーパミン放出量を測っておられたので、こいつも調べてみようということで、早速共同研究をお願いしたところ、長崎国際大に移られた山本経之先生を紹介していただきました。その後山本先生のところで准教授をされていた北市先生(現・岐阜薬科大学教授)に解析をしていただいたところ、予想どおり、Gomafuノックアウトの脳内でのドーパミン放出量が増加していることがわかりました。しかも行動実験と同じく、覚醒剤のシングルショットでは顕著な差は見られず、連続投与をすると、どばっ!と出てくる個体が出てくることがわかりました。

一方、並行して進めていた分子レベルでの原因の方はさっぱり進まず。Gomafu発現細胞で核内構造体のマーカーを片っ端から見ていったのですが、全く差は見られず。定法のマイクロアレイに関してはだいぶ気合いを入れてやったのですが、

第一次遠征:脳全体のサンプルを用いて発現アレイ解析 > 統計的に有意な差を示す遺伝子ナシ
第二次遠征:Gomafuの発現が特に強い海馬をダイセクションして発現アレイ解析 > 統計的に有意な差を示す遺伝子ナシ
第三次遠征:メタンフェタミン投与脳サンプルでの発現アレイ解析 > 統計的に有意な差を示す遺伝子ナシ

また、その頃Gomafuがスプライシング因子であるSF1と相互作用することが分かってきたこともあり、これはきっと選択的スプライシングに何らかの変化が起きているに違いないということで清水の舞台から飛び降りてエクソンアレイを購入したのですが、

第四次遠征:エクソンアレイによる解析 > 統計的に有意な差を示す遺伝子ナシ

むうう、一体いくらつぎこめば良いのだ。元ボスがやんわりと言った「この仕事がモノになるかどうかわかりません」という言葉が、ネガティブな結果を見るたびに頭をよぎります。さすが先見の明が、、、などと感心していても何も始まらないので、なんとかここで一発逆転はないものかとアレイのデータをひねくりまわしてthresholdを下げて発現に差がある遺伝子を幾つか試してみたのですが、そういうものの多くはnを増やしてゆくと再現性がなかったり、あったとしても自分自身が納得できるような差がなかったり、、、

2007年に最初の行動異常のデータが出てからただただ時間ばかりが経っていった2010年のCDBミーティング。ネオタクソノミの前のRNA関連の新学術ncRNAマシナリー共催のこのCDBミーティングで、Ben Blencoweさんが次世代シークエンサーを用いた選択的スプライシングの解析のトークをされたのですが、その美しい解析とデータの明快さに、これだ!!これからは次世代だ!と、お昼のブレイクや懇親会でBenさんにまとわりつき、ミーティングの最後には是非!共同研究で!ということで解析をお願いすることになりました。一発逆転を信じて。

(次回で終わります)

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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