2017年01月19日(木)

多田隈さん

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多田隈さんトリビアその1: 多田隈さんは一分子イメージングの専門家である。

多田隈さんと最初にお会いしたのは2009年の5月。研究室の中でRNAサイレンシングまわりの生化学系が色々と立ち上がりつつあった中、一分子イメージングを使って何か面白いことができないだろうか、という漠然とした興味をもち、柏の上田卓也先生・田口英樹先生の研究室(当時)に出かけていった時であった。雑多なアイデアを出し合い、話はとても盛り上がったものの、具体的に何をどう進めるのが良いかということに結論は出ず、とりあえずタンパク質に蛍光色素を導入するためのプラスミドを分注してもらって帰ってきた。

多田隈さんトリビアその2: 多田隈さんはちょっとロボット的で、いつ寝ているのかよく分からない。もしかしたら寝なくても生きていけるのかもしれない。

しかしその後、一分子イメージングを行うための土台となる生化学的な解析を進めて行くうち、まだまだ生化学でやらなければいけないことが沢山あるということを痛感し、結局一分子に持ち込めないまま1年以上が過ぎてしまった。その間、ほとんど連絡はとらず。今から考えれば不作法だったと反省している。 

多田隈さんトリビアその3: かと思えば、その辺りで寝ていることもたまに見かける。

2010年7月、一念発起して3’末端に蛍光色素を導入した21塩基のRNAオリゴの合成を注文した。これと相補的なRNAオリゴをアニーリングさせてsiRNA二本鎖を作り、細胞抽出液に混ぜてRISCを作らせる。一方、ガラス基板上には標的RNAを模した(蛍光RNAオリゴに対して相補的な)2’-O-methyl RNAオリゴを固定しておく(メチル化は抽出液中の非特異的な分解を防ぐため)。もし蛍光RNAオリゴがガイド鎖としてRISCに取り込まれ、標的を正しく認識すれば輝点が見えるはずである。しかし、アニーリングさせるオリゴの配列を工夫してsiRNA二本鎖の極性を変え、蛍光RNAオリゴがパッセンジャー鎖としてRISCから捨てられる様にすれば、標的上には輝点は見えないはずである。・・・というパイロット実験を計画した。しかし、こんな動くかどうか全く分からない実験を、学生さんや研究員の人々にやってもらうのはちょっと申し訳ない。というわけで、自分で柏に行って実験することとなった。

多田隈さんトリビアその4: 多田隈さんが持ってきてくれるお土産は、いつも、とてもおいしい。

しかし、その後出張やら何やらであっという間に数ヶ月が経ち、結局柏に行けたのは2010年11月のことであった。数年ぶりにピペットマンを握り、多田隈さんに1から教えてもらいながらの初めての一分子実験。実際にやってみると、「全反射顕微鏡を用いた一分子イメージング」という言葉に対して抱いていた機械的で洗練されたイメージとは全く異なり、とてもアナログで手作り感満載の作業だった。そしてそれが逆にとても新鮮だった。

多田隈さんトリビアその5: 多田隈さんからのメールは、いつも、とても丁寧である。

ガラス基盤を顕微鏡にセットし、いざモニターに映し出されたモノクロの画像をのぞき込むと、そこにはたくさんの点が映し出されていた。星の様に見えるこの一つ一つの点が、今まさに標的を認識しているRISC分子なのか、と私は心の中で静かに感動した。「おーっ」と声が出ていたような気もする。重要なことに、siRNAの極性を変えたネガティブコントロールでは、ほとんど輝点が観察されなかった。これは色々面白いことができるかもしれない。このようにして、多田隈さんとの濃密な共同研究が始まった。

多田隈さんトリビアその6: 多田隈さんは、忘年会など研究室のイベントには、だいたいいつも参加してくれる。研究室旅行でさえも。

その後、上田研究室のヤオ チュンヤンさん、そして2011年の4月から当研究室に加わってくれた佐々木 浩さんが、本格的にRNAサイレンシングの一分子イメージングのプロジェクトを進めてくれることになった。また、ちょうどその頃、研究室の岩崎 信太郎さんが、シャペロンを含めてRISC形成に必要な因子をすべて突き止めて試験管内で再構成するという実験系を立ち上げてくれた。それから約4年、その間に本新学術領域も無事に発足する中、各人の血のにじむような努力(詳しくは当人達に聞いてあげてください)がようやく実を結び、2015年5月に岩崎・佐々木論文が、その2ヶ月後の7月にはヤオ論文が出版されることとなった。

多田隈さんトリビアその7: 多田隈さんは、分子の気持ちになって考えられる人である。

今では、多田隈さんに組み立ててもらった一分子用の顕微鏡2台が研究室の中で稼働し、「一分子チーム」の人数も増えてきた。それでも、生化学の重要性はまったく低下せず、むしろ、土台となる生化学系をいかに丁寧に作り上げるか、が一分子イメージングの大きなポイントであることがよく分かってきた。生化学できることは生化学でやってしまうのが一番である。生化学ではそれ以上詳しく解析できないという段になって初めて、一分子イメージングでしかアプローチできない面白さが見えてくる。多田隈さんとの共同研究は、これからも長く続きそうである。

多田隈さんトリビアその8: “Where biochemistry ends, biophysics begins.” —Hisashi Tadakuma

 

泊 幸秀

東京大学 分子細胞生物学研究所 教授
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