2017年11月04日(土)

そうだ、パースに行こう

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パラスペックル研究の生みの母、Archa FoxさんとCharlie Bondさん企画のプチシンポジウムに参加するため、オーストラリアはパース、University of Western Australiaに行ってまいりました。

札幌ではこのところの冷え込みで紅葉も一気に進み、初雪も降っていよいよ冬仕度を始めようかという頃合いですが、Perthはもう直に夏本番。日中はTシャツでも暑いぐらいで、夕方東の空に上下逆さまに浮かぶ月を見るにつけ、ああ南半球に来たんだなあということを実感します。

西オーストラリアは日本からだと直行便もなく、飛行機を乗り継いでまるまる24時間もかかる場所なので「そうだ、パースに行こう」、というノリにははなかなかならないところではありますが、長鎖ノンコーディングRNAといえばNeat1、Neat1といえばパラスペックル、パラスペックルといえばパースです。廣瀬さんに「今度Archaたちがパースでパラスペックルがらみのミーティングするのに呼ばれてるんだよね。中川さんも来る?」と声をかけていただいた時は、これぞ千載一遇のチャンスとばかりにその日のうちにチケットを取って「僕も行くからよろしくね!」とArchaさんに即メール。なんだか押しかけ女房気味でしたが、まさにパラスペックル研究を切り開いてこられた人々が繰り広げる最先端のディスカッションは、聞いていてとても刺激になりました。会場も素晴らしく、西オーストラリア大学内の施設なのですが、目の前のスワン川には黒鳥がのんびりと浮かんでおり、遠くの方にはイルカが泳いでいました。北大もキャンパスとしてはとても素晴らしいと思いますが、こういう良い環境の元で研究できる学生はしあわせだと思います。

今回のミーティングのお題は「Multidisciplinary insights into higher order biological complexes」です。ここ数年、天然変性ドメインを持つRNA結合蛋白質によって引き起こされる液相分離が様々な現象を説明できるということでその界隈の研究が大流行していますが、RNA成分やタンパク質の構成成分、さらに内部の微細構造まで詳細な情報が加速度的に蓄積しつつあるパラスペックル研究は、液相分離研究の良いモデルシステムとなるポテンシャルがあると思われます。というわけで、これまでの分子細胞生物学的なパラスペックル研究だけでなく、タンパク質の凝集の研究をしてる人、炭酸カルシウムの結晶の研究を分子動力学的アプローチで研究している人、メカノバイオロジーをやってる人、直接関係があるのかないのかわからないけれどもなんか面白そう、という話題をちりばめたこのミーティング、とてもよい頭の体操になりました。そもそも、一般論として、ミネラルの結晶はイオン結合で成長してゆくのではなく、エントロピー的な過程で作られていくという話はその業界の人にとっては常識なのでしょうが僕にとっては目から鱗でしたし、当たり前ながらまだまだ自分の知らない世界がたくさんあることを再認識させられました。まさに少年老いやすく学成り難し、です。異分野連携というと言葉だけが先走ってしまうきらいが多々ありますが、研究費獲得のためとか交付金獲得のためとか生臭い話はなしにして、たまには立ち止まっていろんな分野の話を聴く心の「あそび」をずっと持ち続けていきたいものです。

また、今回の出張で特に楽しみにしていたのは、シアノバクテリアが作り上げる不思議な構造物、ストロマトライト見学です。化石じゃなくて本物のやつ。廣瀬さんがストロマトライトのマニアということで、Charie&Archaが比較的近くでストロマトライトが見られるセティス湖までのhalf day excursionを企画してくれました。大気中の二酸化炭素をせっせと酸素に変換し、途方もない時間をかけて今の大気組成を作り上げたシアノバクテリアたちは、生物進化の最大の功労者と言っても良いのではないでしょうか。とはいえ、見た目はただの丸い岩。そんなにサイズが大きいわけでもありませんし、知らない人が見たら札幌の時計台やオランダの小便小僧のように、ガッカリ名所扱いされかねませんが、こちとら曲がりなりにも生物の研究者。心踊らないわけがありません。30億年以上も前に地球に広がっていた景色をちょっとだけ切り取ってタイムマシンで持ってきたのが目の前の風景なのかと考えると、とても不思議な気分になってきます。かつては地球上の海岸のほぼ全体を覆い尽くしていたに違いないストロマトライト。でも現在これが見られるのは西オーストラリアだけ。この世界の片隅でひっそりと生きながらえているその姿はあまりにも平凡で、ここから現在に至る全ての生物の歴史が始まったということは、状況証拠がたとえそうだったとしても、とてもにわかには信じられません。ここだけ切り取って同じような環境の生命体がいない惑星に持って行って、30億年後にはカエサルや坂本龍馬が生まれてくるなんて、どういう想像力を働かせれば良いのか!!

南半球は木々も鳥も虫たちも見たことの無いものばかりで、北半球と一緒なのは、人間ぐらいでしょうか。街中にKings Parkという公園があるのですが、そこは基本的にもともとあったブッシュを手付かずに残しているらしく、見慣れぬユーカリ属の木々がそこらじゅうを埋め尽くしているブッシュの中の遊歩道を歩いていると、ガラパゴス島に上陸したダーウィンの気分。と、そこまで衝撃的なものではないにせよ、異国風情という言葉では片付けられない、不思議な気分がしてきます。生物の多様性は実に奥深いです。バンクシアの実とか、シンゴジラの尻尾の先みたい。

帰りの飛行機ではブロッケン現象が見えました。今回のパラスペックル修行4日間を生かして、次の展開につなげていきたいものです。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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