スペインのバルセロナから電車で30分程度のシッチェスという小さな町で行われました。中世の港町の風情を残しつつ、会場となったホテルからも地中海が望める非常に美しいリゾート地でした。そのため夏の間は多くの海浜客が訪れるようですが、繫忙期を終えて少し落ち着きを取り戻しているようでした。会場すぐそばにはヌーディストビーチがあり、かつLGBTの方々が集まる街としても有名なようで、初めて見る景色に驚きを隠せなかったのは触れておかねばなりません。
もちろん刺激的だったのはビーチではなく、講演そのもので、3日間でしたが連日朝から夕方まで濃密な内容だったため、時差ぼけをしている暇がありませんでした。
ノンコーディングRNA関連では、ブラウン大学のJohn M. Sedivy先生は、レトロトランスポゾンLINE-1(Long Interspersed Element-1)と老化の関係について講演されていました。最近LINE1の転移を制御する因子について報告されていたようですが、LINE1が加齢とともにゲノム上に増えていくと、そこから発現されるmRNAとcDNAが二重鎖を形成するようになります。このmRNA;cDNA hybridがISD(IFN-stimulatory DNA)となり、さまざまな細胞でtype I interferonの発現を誘導して老化を進行させるというデータを示されていました。
また、ドイツのMax Planck InstituteのL. Partridge先生のキーノートレクチャーでは、脳皮質では老化に伴ってCircular RNAが増えるというお話がありました。microRNAのスポンジとしても働く環状RNAですが、DrosophilaにおいてあるCircRNAを過剰発現した時の寿命が延長していました。詳しい機序については説明はありませんでしたが、興味深いデータを示されていました。
個人的にはStanford大学のA. Brunet先生が講演された、老化に伴う脳室下帯での神経幹細胞の変化については、非常に興味深かったです。組織のsingle cell RNA-seqの結果から、老化に伴ってT細胞浸潤があることを示されていました。そこから、細胞障害性T細胞が神経幹細胞にどのような表現型を生むか解析されていました。未発表のデータに関しては、直接ではないものの実験手法として自分の実験に生かせるヒントを得ることが出来ました。
また、同じくStanford大学のC. M. Weyand先生は骨髄老化についての講演でした。骨内膜と髄質の内皮細胞の発現解析や、骨芽細胞分化が老化によってどのように変化するか示されていました。IL1aが骨髄老化に伴って髄質で上昇し、これを抑えることで造血細胞の分化形態が変わっていました。骨髄の抽出液から分泌蛋白の網羅的解析を行うことなど、自分の実験系でも生かせる内容でした。
昨年の老化をテーマにしたKeystone symposiaではSirt, NAD+, Nampt関連の講演が多くて少し入り込めなかった記憶があります。今回ご講演されたワシントン大学の今井眞一郎先生の、白色脂肪組織、視床下部、その他の臓器間連関を繋ぐeNAMPTのお話などはもちろん興味深かったのですが、ポスター発表もバラエティに富んでいました。フランスの方のポスターで心臓の間質系幹細胞の老化に関する実験は、ラボ内の実験にも生かせるものでした。自分の心臓老化、心不全に関するポスターに関しては、少し門外漢な内容でしたので最初はどなたにも興味を持たれなかったのですが、根気よく立っていたら徐々に興味を示してもらえました。どのくらい意見交換が有効であったかは分かりませんが、貴重な経験が出来ました。
最後になりましたが、今回助成を頂き非常に有意義な日々を過ごすことが出来ました。過ごしやすい環境で、日常業務を忘れてリラックスしながらも、大いに好奇心を刺激される毎日でした。今後アウトプットとして還元できるよう一層研究を進める所存であります。誠に有難うございました。