2018年04月11日(水)

EMBO meeting @ Weismann Institute (3)

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ミーティングも3日目に突入。気の抜けないトークが続きます。今日はすでに論文になっている3つのlncRNA、SAMMSON、lncND、Pinkyのトークがありました。前者二つはヒト(霊長類)特異的。mutant study大好き人間としてはちょっと消化不良なところもあるのですが、分子メカニズムまでしっかり詰められているとても綺麗な仕事です。

KU LeuvenのEleonora Leucciさんが見つけたSAMMSONはメラノーマで特異的に発現が見られるlncRNAで、メラノーマはこの遺伝子がなければ生きていけない。つまりガンになるためだけに存在しているような遺伝子で、なんでこんなものを後生大事にヒトが持っているのかよくわかりませんが、なんで私が北大に?みたいに思わぬところで幸運に恵まれるのが人生ですから、進化の過程で必要だった時もあるんでしょうか。分子レベルではp32に結合していて、p32がRNA依存的に幾つかのタンパク質と相互作用するのを助けているみたいです。RNA依存的な複合体形成というのは、結構いろいろなところであるのかもしれません。

UCSBのKenneth KosikさんはlncNDのお話。これもヒト特異的なlncRNAですね。ちょっとマニアックな話になりますが、マウスと異なりヒトでは神経細胞の産生が2段階になっていて、初期はSVZ型(マウスはここでおしまい)、後期はOSVZ型に移行します。これでよりたくさんの神経細胞を作ることができるので脳がでかくなった、という話なのですが、lncNDはOSVZ型の神経細胞の産生をサポートしているのではないか、というストーリーです。元神経屋としては結構ツボなところなのですが、メカニズムもなるほど、というもので、lncNDはmiR143というmiRNAの結合サイトをたくさん持っています。要は、miRNAのスポンジですね。このmiR143というのは、神経細胞の前駆細胞を維持するlateral inhibitionに必要なNotchを標的にしています。ですので、lncND>miR143低下>Notchが元気で細胞増える、ということみたいです。ちなみにマウスでこいつを出してやると細胞が増える!賢いマウスが生まれてくるわけではないですが、進化の観点から見てもなかなか興味深いところです。

そしてUCSCのDaniel Limさん。DanさんといえばCRISPiの大規模スクリーニングで細胞の増殖に必要なlncRNAたくさん見つけちゃいましたのScience論文が有名ですが、個別のlncRNAの変異マウスを使ったお仕事も進めていて、ちょっと前に論文になったPinkyについての話をメインにされていました。これは神経細胞の分化の際に発現が上がってくるlncRNAとしてピックアップされてきたものですが、ノックアウトマウスを作ると大脳皮質が薄くなる。その表現型はBACのトランスジェニックでレスキューされる。僕が大好きなtransタイプのlncRNAですね。この仕事の綺麗なところは、Pinkyのすぐ隣のゲノム領域にはPou3f2という転写因子があるのですが、こいつを潰したBACでもレスキューがかかることを確認している点です。これまで紹介してきたlncRNA、いずれもとっても有名な遺伝子の隣にある遺伝子ばかりで、ともすると、実はそこに何かしらの影響があるのではないか、という疑念がいつまでもつきまとうわけですが、それを綺麗に否定しています。CRISPRiの大規模スクリーニングもこなすし、こういう地道なgeneticsもきちんとできる。もうなんだか嫌になっちゃいますが、なんだか嬉しかったのは、彼はmutantを使った研究をすごく重要視していると言っていたところです。大規模スクリーニングのラスボスみたいな仕事を出している人がこういう発言をしていると、とても勇気づけられます。

そして、圧巻だったのは今回のオーガナイザーの一人のIgor Ulitskyさんの発表。cisに働くタイプのlncRNAで、それがなんと翻訳レベルでも効いているらしいとのこと。ちょっと最初は何を言っているのかわからなかったのですが、ありのまま起こったことを話すと、、、おっと、この先は未発表データーばっかりだったので詳細は省かせていただきます。そのうち論文として出てくることでしょう。bioRxivあたり要チェックです。ちなみに彼、Twitterで有用な情報をよく発信していて、lncRNAに興味のある方はフォローおすすめです。

この日の午後はexcursionで、参加者みんなで仲良くバスに乗ってエルサレムに行ってきました。まさか生きている間にエルサレムに行く機会があるとは思っていなかったのでいろいろ感慨深いものがありましたが、なんていうのでしょう。晴れやかな感動というよりは、ツアーが終わってなんだか重い気持ちになったのも事実です。エルサレムの旧市街は壁に囲まれています。中に入ると有名な嘆きの壁もあります。こういう壁、日本にはありません。強いて言えばお城の石垣や北野の天神さんの御土居がそうなのかもしれませんが、むしろ人を惹きつける魅力があるような気がします(見慣れているからだけかもしれませんが)。それらと比して、来るものを頑なに拒んでいる壁。乗り越えようという気持ちが全くおこならない壁。ただただ立ち尽くすしかない壁。ムリ壁どころではない壁。柄にもなくちょっと真面目な話になってしまいましたが、壁はなくて済むなら絶対にない方が良い。つくづくそう思いました。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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