2017年01月31日(火)

RNA結合タンパク質研究の今後

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 2年間、大変お世話になりました。沢山の新進気鋭の研究者と知り合うことができ、研究や仲間の広がりという意味では大変実り多い2年間でした。

 私が本領域に参加した頃には、PAR-CLIP法というRNA結合タンパク質の標的を網羅的に同定する手法をラボ内でできるようになって数年が経過した頃 でした。この領域の発展は目覚ましいものがあり、最初にHITS-CLIP法が発表されてから、PAR-CLIP法、iCLIP法と改変され、その後も hiCLIP法、eCLIP法と新たな解析法が発表されました。また、修飾を解析するmiCLIP法やRNA結合タンパク質を網羅的に同定するPAR- CL法などCLIP法を原点とした派生法も多く誕生しました。PAR-CL法を使った論文によると、ヒトには最大1,500個ものRNA結合タンパク質が 存在する可能性が示唆されています。その大方は標的も機能も定かではないものですので、私はこれらの論文を読んだ時に、次々機能未知のRNA結合タンパク 質にPAR-CLIPを行えば、当分の間飯の種には困らないのではないかと考えたものでした。   

 しかし、この甘い考え方は長く続きませんでした。その理由の一つは、解析がルーチン化してくると、パターン解析にはまり飽きるということでした。機能が未知であっても、PAR-CLIPをやってみると大概はスプライシング制御やRNAの安定化に関与しているものが多く、標的さえ分かってしまえば、その後の詰めの作業は一緒です。理研のある方が留学先をPAR-CLIP工場と言われていた気持ちがよく分かりました。もう一つの理由は、PAR-CLIPをやってみると、認識モチーフはU-richとかAU-richとか単純な配列になるタンパク質が多いということでした。また、FUSのようにモチーフがはっきりしないようなタンパク質も多く、一次配列だけではタンパク質による制御は語れないのではないかという思いが強くなったことです。東大の木立さんがよく言われているように、周囲に二次構造が埋もれていたり、実際には高次構造を認識しているのではないかと思われるのですが、この辺りはPAR-CLIP法だけでは詰め切れない訳です。実際のところ、同じような配列に結合するRNA結合タンパク質は、細胞の中でどうやって標的を振り分けているのだろうかと考え出すと、すでに気持ちはポストCLIPに移行気味で、時空間制御を解析するいい方法はないかと思案する日々です。CLIPを通して一昔前には不可能だったことが可能となり、そしてまた新たな課題が明らかになってきたところではないでしょうか。RNA結合タンパク質の協調と競合は益々奥深いテーマとなり、ncRNAの機能を明らかにする上でも更に深化を遂げるべきだと思います。

 本領域では、班会議などを通して多くのことを学ばせていただきました。今後のご発展を心より祈念しております。

河原 行郎

大阪大学 医学系研究科神経遺伝子学 教授
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