2015年03月25日(水)

in situ hybridizationの簡易プロトコール

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うまくいっているときはプロトコールを変えないのが鉄則です。しかしながら、ついつい良さそうな噂を聞きつけると試したくなるのも心情。かといって、そんなことばかりしていては肝心の仕事は前に進みません。僕らが使っているin situ hybridizationのプロトコールはかれこれ20年ぐらい何も変えず、それでうまくいっていたので今更いじるところもなかろうと思っていたのですが、衝撃の事実が。。。

 発端は廣瀬研を訪問してのディスカッション。in situ hybridizationと抗体との二重染色の話になり、ポスドクの川口くん曰く、最近ProKとかかけていませんよ、とのこと。たしかにProK処理は抗体染色のシグナルを弱くする傾向にありますが、RNA in situのシグナルを格段に強くするので、僕の常識としてはこれは必須。内心、RNAのシグナルかなり弱くなってるんじゃないだろうか、ふっふっふ、プロの技で染色して違いを見せてやる、と彼のプロトコールと僕のプロトコールを検討したところ、、、

 

 

完全敗北!

 

 

左がこれまで使ってきたプロトコール、右が廣瀬研の簡易プロトコール。なんと、RNAのシグナルほとんど変わらないじゃあないですか。しかも、二重染色の抗体染色(核が染まるはず)は格段に改善されています。

ここで、プロトコールのおさらいですが、これまで僕らが使ってきたのは、プレハイブリダイゼーションまで17ステップ。発生屋が組織切片でよく使ってきたプロトコールです。

Fix 4% PFA in HCMF o/n @ 4ºC
PBS wash 5 min
DW wash 5 min
0.2N HCl 20 min
DW wash 5 min
ProK Buffer (prewarmed @ 37ºC) 5 min
ProK (3.3 µg/ml) 7 min @ 37ºC
0.2% Glycine 10 min
PBS wash 5 min
Fix 4% PFA in HCMF 20 min
PBS wash 5min
DW wash 5 min
Acetylation (3 ml Triethanol amine, 0.5 ml Acetic anhydrite, 0.5 ml HCl(conc)) 15 min
DW wash 5 min
100% EtOH 5 min
DW wash
Prehybridization

前日に固定してサンプルを仕込み、翌朝茶事の作法のように一つ一つ儀式を重ねるように作業を進め、半日かけて仕事を終えた時にはマラソンを走り終えた時のような達成感と清涼感を味わえるのがin situ hybridiationの醍醐味でもあったわけです。

ところが、簡易プロトコールはなんと、、、

Fix 4% PFA in HCMF 10 min @ RT
PBS wash 5 min
PBS Triton 0.5% 10 min
Prehybridization

早っ!!あっという間にプレハイじゃないですか。

これまでProKを省いたりHClを省いたり、アセチル化のステップを省いたりとかいろいろ条件検討を重ねたことはあるのですが、固定を室温10分というのは、全く頭にありませんでした。固定を弱くしておけばProKもHClも必要ないという、当たり前と言えば当たり前の話。ちなみに、David Spectorとか、最近流行りの一分子も見れるというオリゴプローブも、このプロトコールを使っています。

というわけで、ProKやHClを使うプロトコールを使っていた皆様、簡易プロトコールを是非お試しください。培養細胞でやる限り、劇的に作業が簡易化され、しかもシグナルの改善も見込まれるようです。特に抗体染色のシグナルは劇的に強くなります。

技術はあっという間に陳腐化し、古くからやっている人が一番情報が遅れがちになる、という典型ですね。鉄板プロトコールもバージョンアップが必要なようです。

(追記 3/26)ProKプロトコールも決定的にアカンタレというわけではなく、タンパク質に覆われたRNAのシグナルをきちんと見るためにはTriton処理だけでは不十分なようです。パイロット実験で両方を試し、目的に応じて使い分けるのが良さそうです。20年間イタズラに無駄なことをしていたというわけではないということで一安心。。。

最終修正日 2015年03月26日(木)
中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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