2018年11月09日(金)

JAJ RNA 2018レポート(1)

投稿者: 大谷 美紗都

奈良先端大・バイオで助教をしております大谷美沙都と申します。

このたび、日本とオーストラリアのRNA研究者交流を目的とした国際会議「JAJ RNA 2018」(「ノンコーディングRNAネオタクソノミ」協賛)のミーティングレポートを仰せつかりました。私は植物のRNA代謝制御や細胞分化・脱分化制御を主戦場として研究しているのですが、実はこれまで「ノンコーディングRNAネオタクソノミ」領域と直接的な関わりはありませんでした。この度、何の因果か幸運にも本会議での講演の機会をいただきましたので、いわば「外部からの目」ということで「JAJ RNA 2018」の紹介をさせていただければと思います。

「JAJ RNA 2018」は、黄金色の銀杏を始め紅葉美しい北海道大学にて、2018年11月5日~7日の三日間の日程で行われました。JAJ RNAミーティングは今回が2回目とのこと(前回は2014年にシドニーで開催された由)、メインの参加者の方々はすでに仲良し同士、初日朝のwelcome timeから「久しぶり!いつ着いたの?」「論文見たよ」「あのデータだけど・・・」と和気あいあいなご様子。

そんな穏やかな雰囲気で始まったJAJ RNA 2018、日本とオーストラリアから1名ずつのKeynote talkと、6つに亘るトークセッション、それからポスターセッションの構成で行われました。最初はオーストラリアからDr. Greg Goodall(Univ South Australia)によるmiR-200の制御ターゲットについての壮大なKeynote talk。いわゆるmiRNAらしく特定ターゲット遺伝子の発現制御とそのネットワーク・・かと思えば、あれよあれよと回り回って転写もスプライシングも(今流行の)circular RNAも・・・おお、結局なんでもかんでも貴方様の支配下にあるのですな!という仕立てに感心しました。そして同時に、今回の会議全体に通底する一つの大きなメッセージ“結局、どのRNA代謝制御も、あるとあらゆる種類の遺伝子発現制御に波及していくのよね?”が既に表されていたオープニングトークでありました。

また、もう一方の日本代表Keynote talkスピーカー、鈴木勉先生(東京大)の技術と情報に裏打ちされた緻密なRNA修飾制御研究トークも圧巻でした。昨今は次世代シーケンサー解析が一般化し、デジタルデータが満ちあふれる時代になってしまいましたが、個人的にはその大半は実験的には確認できないin silicoの幻に過ぎないのではないか(失礼!)と危惧しております。そんな中、しっかり“モノ取り研究”に軸足を置かれる鈴木先生の姿勢、やはり実験生物学者としてはこうありたいと背筋が伸びる思いで拝聴いたしました。なにより、最新の新規RNA修飾酵素の同定と解析のお話、その発見の顛末のストーリー含めてエキサイティングなお話をいただきました。近々素晴らしい成果として大々的に発表される模様です。みなさま、お楽しみに!

その他いろいろと感銘を受けたトークがたくさんあったのですが、未発表データを含むものが大半であったと理解しておりますので、詳細は控えさせていただきまして、発表全体を通して感じた点をいくつか挙げてみたいと思います。まずは、2〜3種のゲノムワイドデータを重ねるのが一般化してきたなという印象。転写量(いわゆるトランスクリプトーム)だけでなく、ribosome profiling、epi-transcriptome、さらにはDNA-RNAハイブリッド!などなど、ゲノムワイド研究はどんどんお金のかかる方向に・・・失礼、情報が複雑化していく方向になってきました。いまはまだ、その中から数個の事象にきゅっとフォーカスするスタイルで研究が成り立っていますが、ここに他のオミクス研究(ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクス)が重なるであろう未来を考えると、そのうち私たちの脳みそでは太刀打ちできなくなって、いわゆるAIにお出ましいただく日も遠くなさそうです。

また、数年前に比べて、生物進化的な視点でフラットに複数の生物種を取り上げる研究が増えてきたと感じました。これもまたポストゲノム研究の賜物、非モデル生物の研究が盛んになってきた恩恵かと思います。植物研究者としては、これは非常に心強い傾向で、とくにRNAの使い方にこそ生き様が集約されていると信じている身の上としては、こうしたマクロな切り口が増えていくのが楽しみです。もちろん、生物種固有のノンコーディングRNAもあるでしょう。生物進化の中で、機能を維持し続けたものも、使い方が変わっていったものもあるでしょう。RNAから読み解く生物の生物らしさ、今後の展開に期待です。

加えて、会議としての「JAJ RNA 2018」の感想をいくつか。全体としては、気心知れている研究仲間同士の会合ならではの緊張感(“かっこわるいところは見せられない”というあの空気)があり、また参加者(推定)100名程度という全員の顔が見えるジャストなサイズ、過不足なく会議に集中できる運営側サービスと、非常にバランスの良い会議でした。RNA研究者にはプレゼン上手な方が多いと前々から感じておりましたが、今回もみなさま個性炸裂、感性が刺激される発表が多かったです・・・また、全体を通して発表時間超過のスピーカーはほぼ皆無、ほとんどスケジュール通りの会進行はなかなかに素晴らしかったです。これ、実は簡単なことではないのですよ?JAJ RNA 2018オーガナイザーの先生方、素晴らしい会議運営、ありがとうございました。

それから、女性視点ということで念のため言及させていただきますと、スピーカー32人中女性は8人でした。女性率25%、これも素晴らしい数字です。女性とRNA研究はなじみが良いのか、女性研究者が多めなのもRNA業界の素晴らしいところ。多様性が高い生物集団の方がより生産性が高く安定するのは、まさにわれわれ生物学者が科学的に示してきたことです。ぜひとも多様な研究集団として、生産性高いRNA研究に励みたいものです。

会議終了後、廣瀬先生から「過去の事例から考えても、植物にはオリジナルなRNA関連現象がまだまだ隠れているに違いない、がんばってください」と嬉しい励ましをいただきました。そうなんです、さすがです、廣瀬先生!

実は、植物RNA研究者は、RNA研究集会に行ってもマイノリティ、植物研究集会に行ってもマイノリティ。挙げ句、何かの学会で学生さんに無邪気に「植物にもRNAはあるんですか?」「っていうか、そもそも遺伝子あるんですか?」と聞かれた時には涙がこぼれそうになりました・・・メンデル遺伝学も、トランスポゾンも、RNAサイレンシング(植物ではPTGSと呼びますが)も、そしてAGOタンパク質も(泊先生、トークでのご紹介ありがとうございます)、たどればすべて最初の発見は植物からですよ!

「植物だからこそ発見できたRNA現象」の、胸を張っての報告のため、さらなる精進を心した会議となりました。

末尾になりましたが、改めて、この度は「JAJ RNA 2018」への講演の機会を与えていただき、本当にありがとうございました。大いに楽しんだ三日間でした。「JAJ RNA」および関係者のみなさまの研究のますますのご発展、ご成功を祈念しつつ、以上、ミーティングレポートとさせていただきたいと思います。

奈良先端大・バイオ・大谷美沙都

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