2015年02月07日(土)

パラスペックルの生理機能〜Neat1 KOマウス表現型解析の顛末(4)

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研究が壁に当たったらどうするか。ラボの同僚に聞く、友人に聞く、ボスとディスカッションする、いろいろ手段があると思いますが、結局のところ、その分野の世界の最前線で働いている人に聞くのが一番です。

いくら論文を読み込んでも、その関連分野と思われる学会をなんとか探し出して非会員で参加しても、結局断片的な知識がいたずらに積みあがるだけ、というのはママあります。たとえば、妊孕性が低下するノックアウトマウスの論文はいくつか出ていたのですが、それぞれがこの学問の登山道の中でどのような位置づけで、何合目にあって、どのような分かれ道にある論文なのか。その研究のヒストリーを見ていた人でしかわからない大局観というのが存在するような気がします。現場を知る人の本質をえぐった一言でそれまでばらばらだった点と点がすーとつながってゆくという経験をこれまで何回もしてきましたが、今回も御多分に漏れず、排卵後の卵胞の専門家、島田さんのアドバイスで、物事が急速に整理されてきました。

まずはそもそも黄体とは何ぞやから。黄体という単語がキーワードになったのは中学校の保健体育の授業以来だったということは断言できるのですが、そもそもマウスの性周期では機能的な黄体ができないという事実にびっくり。マウスの場合、交尾をしない時の性周期では機能的な黄体を作らず、黄体期がないために排卵終わってまた排卵。どんどん排卵することで、強靭な繁殖力を手にしているとのこと。で、妊娠するためには黄体を作って妊娠ホルモンが分泌されなければいけないわけですが、マウスの場合、交尾の刺激が脳に伝わり、脳下垂体からプロラクチンが分泌されることで、機能的な黄体がはじめてつくられる。つまり、交尾をしないマウスをいくら見ていても、機能的な黄体を見ていることにはならないと。ガーン。これまでの実験、ほとんど無駄。論文を読んでいて、そういうWiki的な知識だけは頭の片隅にあったのですが、「座学」はやはりダメというのを痛感しました。結局、実験系の立て方がダメダメ。島田さんの指導を受けて、何をどのように順序立ててやればよいかというのかがだんだんわかってきました。

  1. 排卵が起きなければ黄体ができないのは当たり前だから、排卵が起きているかチェックすべし。
  2. 排卵だけ見るのであれば、性周期が始まる前の未成熟なメスにホルモンを投与する実験系が切れ味が良い。
  3. とはいえ、自然妊娠による黄体の形成を見るのがベスト。というかそこを見なければ始まらない。
  4. 血中のプロゲステロン濃度を見るのは重要。
  5. その他諸々、、、

ともあれ、この分野のお作法の実験を一通りこなし、そうしてみるとこれまで見向きもしなかったReproduction、Endocrinology関連の雑誌に掲載された論文が感動の嵐になったりするから不思議なものです。いろいろ突き詰めていくと、卵巣の移植実験が一番のカギになることも明らかとなってきたのですが、これは松江での発生学会のコーヒーブレイクでたまたま出会ったラボの先輩、フジモリ氏に「卵巣の移植って難しいですか?」とお尋ねしたところ、「簡単簡単。やったことあるよ」。いともかたんたんにHeroのマスターのように、あるよ、です。さすが!さっそく、ラボに来てもらって手ほどきしていただきました。バスケットボールをハンドボールのように鷲づかみできるフジモリさん。大きな手の割に器用というのはじつは結構あるのかもしれません。そういえば僕の昔のボスの旦那さんのBillも、めちゃくちゃでかい手をしていて、行儀が悪くてだらしなくて、吉高由里子ばりにいつもフラフラ体を揺らしているのに、実体顕微鏡の前に座るとぴたりとすべての動きが止まり、肘から肩はsolid rock、手首からさきはバレリーナのようなしなやかさで魔法のように網膜の部分移植の手ほどきをしてくださいました。

フジモリさん、「おっ、できたできた」とか危なっかしそうなことを口にしながら、華麗に4匹の移植を見せてくださったのですが(ちなみにすべて成功!)、これがなかなか難しくて、結局自分でやりこなせるようになるのに半年ぐらいかかってしまいましたが、どうにかこうにか一通りの実験を終えることができました。

そして、生理学的なデータが一通り出そろったところでタイミングよくncRNAのKeystone Meetingがあり、Neat1のノックアウトマウスがらみの共同研究をしている人も数人参加するということで、いきようようと宮沢りえSantaFeに乗り込みました。

いい加減仕事に戻れ!!とかいわれそうですので、次回、最終回です。。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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