2017年12月25日(月)

GONADな一年

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学位を取って研究の世界に入ってかれこれ20年近くが経とうとしているわけですが、20年前と今とでは世の中の研究のスタイルや潮流が大きく変わっていることに改めて驚かされます。

以前、裾野で行われたRNA若手の会でしたか、九大の中山さんが特別講演で、研究というのはその場その場でやってくる新技術のwaveにしっかりと乗ることが重要だというような話をされていました。とにかく、技術というのは日進月歩で、僕が学生の頃きらびやかな名前とともに登場した新技術でも、今ではほとんど使われなくなったものが山ほどあります。Differential display、Two hybrid screening、Subtractive PCR screening。その時代その時代で一世を風靡したキットや器具も今ではその役割をほぼ終え、実験室の片隅のダンボール箱の中で静かな余生を送っているというのはよくある風景です。HindIIIでpartialに切った後BluntにしてSalIで切ってRVとXhoIに放り込めばバッチリ、なんていうのは本当にどうでも良い知識になってしまいましたし、技術というのは常に新しい技術で置き換えられます。変わらぬまことは変わるということ。技術に振り回されて本来の目的を見失ってしまうのはアホらしいですが、新しい技術が新しい世界への扉を開いてくれるのは間違いのない事実だと思います。

そういう意味で、昨年末の分子生物学会のゲノム編集がらみのシンポジウムで東海大の大塚さんのiGONADの発表を聞いて以来、今年一年、頭の中はGONAD一色だった感があります。CRISPR-Cas9を用いた変異マウス作製は2,3年ほど前からもう普通に行われていましたし、何か今までできなかったことができるようになったという技術ではないかもしれませんが、ネズミを飼育するスペースとエレクトロポレーションの機械さえあれば、マウスのcore facilityがなくても、どんな大学でも、どんなラボでも、へたすりゃ下宿でも手軽にKOマウス、Kinマウスが作れるようになったということの意義はとても大きいと思います。クライオ電顕や高速AFM、超高感度な質量分析などの技術などの超大型巨人装置は全く新しい世界を見せてくれるという点で桁違いの技術革新であるのは間違いありませんが、じゃあ買ってみましょうと気軽に導入出来るシロモノではありませんし、共同研究ベースでの使用にしても、それができる人数には限りがあります。それに比して、超手軽なiGONADは裾野の広がりがハンパないです。今風にいえば、GONADもうやばいまんじー、です。

東海大は伊勢原参りをして大塚さん、それから大塚さんと共同でGONADを開発された鹿児島大の佐藤正宏さん直々に手技を教えていただき、まだまだ彼らの神領域には届きませんが、insertion-deletionによるKOマウスであれば普通に毎週ぽこぽこ生まれてくる体制にはなってきました。もはや変異マウスを作るところは律速段階ではなくて、生物学的な解析をするところが一番の律速段階、そしてセンスが問われるところです。そちらの方のセンスは正直あまり自信がないので、自分で自分の首を絞めている感はありますが。ともあれ、CRISPR-Cas9ライブラリーのスクリーニングやMinIONなど、お金のかからない「お手軽」な新技術が目白押しな今日この頃。アイデアさえあればいくらでもやれることができる時代。若い人のアイデアが生きる時代。こんな時代に一番必要なのは「根性」ではなくて「青春という心の持ちよう」である、と、ちょっと格好つけて、皆様、よいお年を。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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