2015年11月01日(日)

4.5SHは蜜の味(4)データは数分の一、言いたいことは90%、の論文

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あんまり意味がないけど4.5SH(緑)とMalat1(紫)の超解像画像。この二つのncRNAは両方とも核スペックルで綺麗に絡み合っているように見えますが、異なるサブドメインを作っているようです。(本文の内容と関係ありません) あんまり意味がないけど4.5SH(緑)とMalat1(紫)の超解像画像。この二つのncRNAは両方とも核スペックルで綺麗に絡み合っているように見えますが、異なるサブドメインを作っているようです。(本文の内容と関係ありません)

というわけで、いろいろ紆余曲折がありながらも、以下の4.5SHを介した新規遺伝子発現制御機構を見つけることができました。

1) SINE B1と高い相同性を持つncRNA 4.5SHは核内に大量に存在する。
2) 4.5SHはUTRにアンチセンス方向にSINE B1が挿入されたmRNA群(asB1群)と二本鎖を形成する。
3) 二本鎖形成によって核外輸送の効率が低下する。
4) 4.5SHをノックダウンするとasB1群が細胞質で増加する(SINE B1プローブで確認)。

ここで大きな問題が一つ残っています。そう。asB1群の中で、具体的なターゲット遺伝子は何か?という問題です。これを明らかにしないことには、なかなか「良い」論文にならない>「良い」論文がないとお金がとれない>お金がとれないと実験ができない>実験ができないから「良い」論文が書けないという負のスパイラルが発動!してしまいます。そこで、相当のコストがかかるので躊躇していたのですが、ここが勝負と気合を入れてマイクロアレイ解析をすることにしました。今ではレトロ感が漂うマイクロアレイ解析ですが、2009年当時はまだまだピカピカの高級車的な存在でして。。。

4)の実験で4.5SHをノックダウンするとasB1群が細胞質で増加することが確認できていたので、コントロールとノックダウン細胞の細胞質からRNAをとってきて、マイクロアレイ解析。発現が上昇した遺伝子の中からSINE B1がアンチセンス方向に挿入されている遺伝子に絞って、その後の解析を進めることにしました。ちょっと気になったのは、発現量の変化がそれほど大きくないこと。せいぜい1.5倍です。ただ、レポーター遺伝子のmRNAのようなモデルケースでも同等の差でしたので、「4.5SHによる核内繋留はall or noneではなくて、それほど強くない、マイルドな発現制御に関わっているのだろう」と、楽観的に考えていました。これが後から考えればよくなかったのかも。。。

ともあれ、それっぽい候補遺伝子を数個選んで、標的遺伝子であることを追加確認するための実験を開始しました。第4コーナー近くなってまくるまくる。石田くん、怒涛の追い上げです。それぞれの実験に半年から1年ぐらい、結局5年近くの時間が経ってしまいましたが、鈴木研の協力も得て、論文投稿直前、最後の直線に入った時にはこれ以上ないだろうというデーターをがっつり揃えることができました。

1)標的候補遺伝子のmRNAは4.5SHをノックダウンすると核内で低下、細胞質で増加する。
2)4.5SHでpull downすると標的候補遺伝子のmRNAも濃縮される傾向にある。
3)4.5SHと標的候補遺伝子のmRNAの二本鎖はNF110というタンパク質で認識されている。
4)NF110をノックダウンすると4.5SHのノックダウンと同様、標的候補遺伝子のmRNAが細胞質で増加する。
5)NF110は4.5SHや標的候補遺伝子のmRNAと結合している。

うんこれ最高!分子メカニズムも示すことができたし、ちょっとこれなんかすごく良い論文なのではないかと自画自賛したくなったのは妖怪のせいだったのか。いつものことですが、主観的評価と客観的評価はなかなか一致しないもので、いざ投稿してみるとなかなかレフリーに回してもらえません。ようやく引っかかったと思ったら最後のレフリーの抵抗に遭い、多数決が通用しない世界の厳しさを存分に味わったり、、、

それでも某オープンアクセス誌に投稿したところ、なかなか良い感触。こういう時は下手に喧嘩せず、丁寧に反論していかないと。肝となるコメントは、

「変化も少ないし、それほんとにターゲットなの?CRISPR-CAS9で相補部分を削ったらノックダウンの効果なくなるの?」

というものでした。なるほど!!すごい。このレフリー。そうか、それが言えれば一発だ。んーもうこの人大好き!!

100の間接的な証拠よりも1つの直接的証拠。技術の進歩というのはすごいもので、CRISPR-Cas9のように内在の遺伝子配列を自由に改変できるようになった今、キメの実験が気軽にできるようになりました。早速、レフリーのコメントを参考に、標的候補遺伝子のUTRに挿入されたSINE B1を欠失させることにしました。相互作用する領域がなくなれば、4.5SHによる制御がかからなくなるはずです。従って、二つのアリルの片方だけ欠失させて、野生型のアリルから発現する標的遺伝子のmRNAだけ4.5SHの制御がかかり、SINE B1を欠失させたアリルから発現するmRNAでは4.5SHの制御がかからないことが言えれば完璧です。

ただ、石田くんはすでに新天地iPS研究所に旅立ってしまっていたので、ここから先はテクニカルスタッフの水戸さんにやってもらうことになりました。先日行われたin situ講習会でも大活躍の水戸さん。実験の腕が良いのですね。2月も経たないうちに標的候補遺伝子2つについて、片方のアリルのSINE B1を欠失させた細胞を作ってくれました。で、石田くんをGWに呼び戻して最終確認のノックダウン実験!これで大円団となるはずだったのですが、、、

 

ん?SINE B1挿入配列がなくても、4.5SHをノックダウンすると標的候補遺伝子のmRNAが細胞質で増加してる。。。

 

これが、ガラガラガラと、それまで5年にわたり、特定の標的遺伝子に絞り込んで積み重ねてきたものが大きな音を立てて崩壊した瞬間でした。ちょっと悪い夢を見ているに違いないとその日は早く帰って寝て、次の日モニターをつけたら新しいデーターになっている、なんてことがあるわけありません。もう一つの候補遺伝子についても残念な結果が。キメの実験で続々と否定的なデーターが容赦なくあめあられと降ってきます。あたりは焦土。逃げ場なし。うーん。もうこの実験しなかっとことにしちゃおうか、とか一瞬思いましたが、どうやらこれまでの実験の方針が間違えていたという事実は動かしがたいものになってしまいました。

いろいろ振り返ってみると、やはりマイクロアレイで変動している遺伝子をリストアップした際、絞り込みが甘かったようです。つまり、偶然、非特異的な効果で「予想通りの挙動を示す」遺伝子を拾ってきて詳細な解析を進めてしまったと。ゲノムワイド解析の強力な点は一度に漏らさず細部まで解析できる点ですが、大きな欠点は、遺伝子がそれだけたくさんあれば偶然期待通りの応答をするものが少なからず見つかってしまう点なのかもしれません。よく言われるオフターゲット効果と似たようなものかもしれませんが、この手の効果は「再現性」が良いので、artifactであるかどうかが必ずしも明らかでないのが厄介です。で、統計的に差が明確であれば正しい標的に違いないと、正しい標的ではないものを標的と勘違いして実験を先に進めて、いや進めすぎてしまっていたということに。

とはいえ、4.5SHが核に局在するノンコーディングRNAで、少なくともSINE B1がUTRに挿入されたレポーターmRNAの局在を制御していることが覆されたわけではありませんし、具体的にどの遺伝子かはわからないまでも、アンチセンス挿入SINE B1を持つ内在mRNAを制御しているところまでは明確なデータが揃っています。そう。下のモデルは揺るぎがない。

そもそも、今回の発見のエッセンスはこの図に尽きますし、あとの5年間の作業は僕らの仮説により説得力を持たせるための、ちょっと語弊があるかもしれませんが「良い」論文にするためだけの作業であった、と言ってしまうこともできるかもしれません。であれば、肝の部分だけでも、早く論文にまとめよう。と。具体的な標的遺伝子の探索は、またの機会に。

 

というわけで、データの数としてはもとの数分の1になってしまったけれども、言いたいことの90%は言えている、という論文に書き換え、われらがGenes to Cellsに投稿。リバイスを経て無事掲載の運びとなりました。ダウンロードはこちらから。(営業活動)

今回のこの仕事を通じ、いろいろ学ぶことがありました。まず第一に、CRISPR-Cas9の強力さ。ああでもない、こうでもないと間接的な証拠を積み上げなくても、より合理的でエレガントな実験系が組みやすくなりました。技術の進歩は素晴らしい。良い時代になったなあとつくづく思います。

第二は、ちょっとおかしいなあと思い当たることがあったら早めに引き返すにしかず、ということでしょうか。今回の件で言えば、標的だと思っていた遺伝子の発現変動はそれほど大きくなく、統計をとって有意差が出て安心する、という類のものでした。振れ幅の大きい個体レベルでの解析ではしばしばそういう統計解析が必要となりますが、分子生物学のモデル実験の場合はどうなのか。差がはっきりしているところで勝負する。やはりそれが王道なのかもしれません。

もう一つは、もう少し早い時点で論文にまとめる道を選んでもよかったのではないか、ということです。4.5SHのレポーターmRNAへの制御を発見した時の驚き、これはすごい発見だと甘美な幻想に浸り、蜜の味のする研究から抜けられなくなって5年余。今回は最後に大爆発があって、後半部分が吹っ飛んでしまったわけですが、そこが吹っ飛んでしまったことでかえって、むしろ言いたいことがシンプルに伝わる論文になったという気も、じつはちょっとだけですがしています。昨今はレフリーの要求がどんどん厳しくなり、メカニズム偏重主義、生理機能偏重主義、painful publicationここに至れり、という感が強いですが、研究者自身が自分で足枷をはめてしまってデータをてんこ盛りにしているところもあるのかな、と。もっと素直に、驚きだけを伝える論文があっても良いのかなと。論文はあくまでも手段で、目的となってしまっては本末転倒ですから。

ともあれ、これで長年の懸案にようやく一つ区切りをつけることができました。石田くん、7年にわたる一大プロジェクト、お疲れ様でした。これですっきり。僕も新しいプロジェクトに邁進でき、、、ん?Gomafu KOとかいう10年ものがまだ残っているな。。。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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