2019年01月18日(金)

ラボミーティング

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他の人も書いておられるように、自分自身は5年前と比べてさほど変化したようには感じない。しかし研究室としては、メンバーの入れ替わりや、多様な実験手法の導入、新しい研究テーマの方向性など、常に大きく変化している。また、メールよりも気軽にやりとりができるSlackや、スプレッドシートをはじめとするGoogleのG Suiteなど、日々の作業を効率化・自動化できるようなあれこれやのしくみも、ここ数年の間で色々と取り入れてきた。

一方、メンバーや実験手法、研究テーマがいくら変わっても、あまりスタイルに変化がなく、お決まりのパターンになりがちなのが、研究室セミナー(ラボミーティング)である。他の多くの研究室でも同様だと思われるが、当研究室でも、実験の進捗報告(プログレスレポート)と、面白い論文の紹介(ジャーナルクラブ)を組み合わせ、毎週それぞれ1名ずつ持ち回りで担当する形で、ラボミーティングを行っている。

科学にコミュニケーションは欠かせないものであり、ラボミーティングで色々な意見を出し合い、オープンに議論することによって、自分一人では気づきもしなかったような道筋や問題点が見えてくることも多い。また、良い質問・良い議論ができるということも、科学者としては大切な資質であり、その訓練を積むことができる場として、毎週のラボミーティングは絶好の機会とも言える。

ここで悩ましいのは、ラボミーティングにおいて、意見を述べたり質問をしたりする人がどうしても偏ってしまうということである。多くの場合、当初は静かだった学生さんも、学年が上がり経験を積むにつれて、色々と積極的に発言してくれるようになって行く。ただそうは言っても、おとなしい人、恥ずかしがり屋の人、話し好きな人や声の大きい人など、研究室には様々な個性を持つ人が集まっており、全員に同じように発言してもらうというのは難しい。これは企業などの会議でも同様だろう。

当研究室では数年前から、発表者だけではなく、座長(チェア)も持ち回りで担当し、司会進行を行ってもらっている。また、同じく数年前から、ラボミーティングの冒頭で、一人ずつ30秒から1分ほど、この一週間でやったことを報告してもらう、という「30秒トーク」という時間を設けている。30秒トークにおいては、必ずしも行った実験などについてまじめに報告する必要はなく(もちろんしても良いが)、週末どこに遊びに行ったとか、何を食べたとか、こんな変なことがあったとか、何でも良いので、とにかく全員に発言してもらい、それをみんなで共有する。これらの試みは、それなりにうまく機能しており、30秒トークのために、毎週面白い小ネタを用意してきてくれる人もいる。

しかしそれでも、だいたい決まった人が質問するという状況を大きく変えることはなかなか難しい。そんな中、つい最近、草津に研究室旅行に行った時のこと、宿で学生さん達が「人狼ゲーム/汝は人狼なりや? (Are You a Werewolf?)」をやろうと言い出した。私自身は全く知らなかったが、日本、中国、カナダなど、当研究室にいる様々な国からの学生さんはほとんど皆ルールを知っており、共通で楽しめるパーティーゲームだという。ルールが把握できるまで、しばらく彼ら彼女らが遊ぶ様子を眺めていたところ、「誰が人狼で、誰が村人あるいは能力者だと考えられるのか、またそれはなぜなのか」、つまりその人自身の独自の仮説を、皆かわるがわる雄弁に、かつ論理的に語っており、しかもそれが何だかとても楽しそうなのである。

こういう風に、全員の発言のハードルを下げながら、少しゲーム的に楽しむこともできる要素を、普段のラボミーティングに取り入れられないだろうか。もちろん、サイエンティフィックな議論を妨げない形であることは大前提として・・・研究室旅行からの帰り道、電車に揺られ半分居眠りをしながら、私はぼんやり考えた。そして、1つのゲームのルールを思いついた。

(つづく)

泊 幸秀

東京大学 定量生命科学研究所 教授
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