学位取得後、運良く、東京工業大学の濡木研究室(現東京大学)に受け入れてもらい、RNAiをはじめとする高次生命機能にかかわるタンパク質・核酸の構造解析をはじめました。Argonauteの結晶構造は他のグループに先を越されてしまいましたが、塩見美喜子先生のグループとの共同研究で、piRNA生合成にかかわるZucchiniヌクレアーゼの結晶構造を解明することができました。いくつか論文を出すことができ、より大きなターゲットに挑戦したいと考えていた時に、タイミングよく、CRISPR-Cas9の構造解析に挑戦するチャンスを得ることができました。予想していたように、研究競争は厳しかったのですが、なんとかCas9-ガイド鎖RNA-標的DNA複合体の結晶構造を世界にさきがけて報告することができました。生化学的な解析から、Cas9は100塩基ほどのガイド鎖RNAと複合体を形成し、ガイド鎖RNAの一部(20塩基)と相補的な2本鎖DNAを巻き戻し切断することが明らかになっていましたが、そのメカニズムは不明でした。Cas9の結晶構造はその複雑精緻なメカニズムをみごとに説明するものでした(未解明の部分はありますが)。
論文を投稿する際に、表紙の候補としてロボットの設計図をイメージしたイラストをデザインしました(図)。結晶構造を見るにつけCas9は精巧なナノマシンであると感じたのと、構造情報は新たなゲノム編集ツール開発の設計図となると考えたからです。共同研究者のFeng Zhangの知り合いのデザイナーに依頼したところ、想像以上の仕上がりとなりました。しかし、当初、表紙に採用してもらえるはずだったのですが、出版が予定より早まったため、残念ながら表紙には採用されませんでした。その結果、グラフィカルアブストラクトになったのですが、Cas9のWikipediaをはじめとして色々なところで引用されており、いまは満足しています。今後もエキサイティングな研究をしていきたいと考えておりますので、2年間どうぞよろしくお願いいたします。