脳外科や一般外科にいっては、さすがに、基礎研究はどうもこうもいきそうにない、なんだか、ずっと病院で暮らしている感じだし、、、、また、内科はピラミッドのようなヒエラルキーの中で緻密に研究が行われているように感じました。実際、整形外科医になってみて、昼とは違う、夜の尖鋭達に面喰いました。飲み会からハグレタごく少数のオタクには、全国の動物園からオラウーンタンやゴリラの手を集めて嬉々として解剖されている先輩もいれば、ターミネーターを目指すかのごとくロボット研究に没頭されている方もいらっしゃいました。
昼のお仕事で一番のショックは、”メスをもっても治せない病気、障害が実に多い”という現実でした。六法全書にも引けを取らない手術書を完全にマスターした、憧れの先輩方でも到底歯が立たたないことが多々あります。ただ苦しみ続けるリウマチ患者さんの現場でのケアを任され、自分にもできる疾患研究があるのでは、そして、そこに少しでも貢献ができれば、密かに温めている自分自身の興味を追うチャンスも与えてもらえるのではと、居てもたってもいられなくなりました。
しかし、病理に出入りしても、当時流行りの細胞シグナルを独学してみても、なんだかイメージがわきません。どうせわからないのだったら、外科医らしく、切れるところまで切り込んで、これ以上切れない中枢、核の中を少しでも覗いてみたい。教授に無理いって、大学院にはいって、ピペットをはじめて握ってすぐに、NARに発表された核タンパクを簡単にとりだす手法に出会います。まだ、EMSAが最先端の技術であった頃です。早速、関節リウマチの手術サンプルを用いて、病気の部位の細胞から核タンパクを抽出、同定されたばかりのNF-kBその他DNAの結合領域のオリゴを用いてEMSAを行いました。当時は大学院生とは名ばかりで、実際は授業料を納めて大学病院の底辺を支える(看護士さんのお手伝い)役割というのが業界の常識であり、放射性同位体を使う実験は、病棟のナースから呼び出しのこない夜中におこなうため、夜の12時こえてからスタートして、朝焼けとともにラベルしたサンプルをアプライしていました。そして、、今となっては、当たり前の結果ではありますが、関節リウマチの病状がみられているサンプルの核内タンパクでは、NF-kBのプローブで強いシグナルが見えました。今でもフィルムごと大切にしている自分で行った初めての分子生物学のデータです(写真)。
吹けば飛ぶような小さな論文を出したところ、Keystone会議でえらいお方(たぶん、Micheal Karin先生)が、実際のヒト疾患での証拠として君の論文をレビューしてたよ、と伝え聞き、もう少しだけ、素人研究者として寄り道をさせてもらおうと決心します。
当時、大学院生の私たちのレベルでも、まだ論文としては未発表だったCBPの内因性アセチル化活性の発見が話題となっていました。運よく、CREB/CBPの研究のトップの一人、ハーバード大学のMarc Montminy博士に拾ってもらい、Salk研究所時代には、”in vitroでのクロマティン再構成系”をUCSDのJim Kadonaga研究室で学ばせていただきました。CBP/P300のアセチル化活性こそがクロマティンにたいする“開けごま”という暗号であることを自分の手の中で実感することができ、ポスドクを卒業して、外海に向け出航する心の準備が整いました。
実は、就職にあたり外科系を選んだのは、”麻酔”という”意識”を制御する手技に興味があったこともあります。幸い(?)、研究の真似事をはじめて20年、未だ、吸入麻酔のメカニズムの詳細は明らかではありません。東京医科歯科大学に移り、今年から、麻酔科の大学院生とも研究を始めています。もちろん、仮想ターゲットはncRNA。
究極の目標は、in vitroでの”意識の再構成”です。