2017年07月03日(月)

It’s NOT a small world!

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セントラルドクマを教える教職の立場にあって、non-coding RNAは台頭著しい若手プレーヤーであるものの、果たして、これが転写因子やコファクター、あるいは膜タンパクからシグナル分子といったエスタブリッシュメントされたセレブリティにどこまで食い込めるものか、毎週のように溢れかえる確固たる新知見は、まだ知らぬRNAワールドへ強く誘ってくれるものの、Xistをこえるlong non-coding RNAを待ちわび続けながら、また、small RNAについても、マクロの世界を補完する、サポーティブなsmall worldかもしれない、という、どこか胸を張り切れない感があったことは事実です。

Professor Victor AmbrosによるmiRNAの発見に辿るまでの講演はそんな一抹の不安も一掃し、今、自分の研究にとって、向かうべきベクトルを強く示唆してくれるものでした。miRNAという究極の遊撃手を相手にするにあたり、真実を知りたいならGeneticsに学びなさい、という彼のメッセージのとおり、私たちは軟骨発生と関節炎病態に重要だと報告したmiRNAのノックアウトマウスをCRISPR/Cas9で作り直し、同時に、バックボーンとなるE3ユビキチンライゲース遺伝子のノックアウトマウスを作成、両者を比較したところ、フェノタイプはイントロンにあるmiRNAにのみ起因するという驚くべき事実を得つつあります。

私を含め、多くの研究者が、イントロンにあるmiRNAがまさか兄貴分と思われるタンパク以上の責務を担っているなど、本気で予想していたでしょうか?ならば、今までGene Trap法で作成されたマウスのフェノタイプは、一体どこまでがエクソンからでどこまでがイントロンの表現型を示しているのでしょう?

この事実は、私たちの研究を確信から自信に変えてくれました。すなわち、同じTPOにおけるタンパクとmiRNAの役割において、miRNAがドミナントに活躍することがあるということ。それは、生物学的な意義はもちろん、応用研究に携わる研究者にとっても大きなヒントになると考えております。

たとえゲノム編集を用いたとしても、マウス発生学の研究は長期間にわたることが多く、今、ラボで行われているテーマも10年を超すものが少なくありません。時間X労力にたいするProductivityという点では、究極的に不利なフィールドの一つであり、応用研究への橋渡しも見渡しにくいからか、欧米、アジア問わず研究者は減少し、発生学分野のジャーナルの人気もここのところ微減を続けています。それだけに、愚直なジネティックスで、non-coding RNAの個体レベルでのContributionを他のメジャー分子との比較において客観的かつ公平に評価していくことの大切さをこの前半戦で学ばせていただいたことは、何にも代えがたいものがあります。

丁度、50歳になって迎えた後半戦、不惑のnon-cording RNA研究に邁進したいと思います。皆様のご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

浅原 弘嗣

東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 教授
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