カイゼン術などというと烏滸がましいのですが、私が此処に赴任してきた頃はそれこそ顕微鏡も何もなくて、お古を譲り受けてはそれを使ってさも高価な顕微鏡で撮影するのに近づけられるように色々な工夫をしてみました。
透過光がない実体顕微鏡なのでどうするかというと、ハンズでアルミ板とアクリルの小さな箱を買ってきます。ここでアルミ板というのがミソ。ガラスや鏡も試してみたのですが、乱反射させた方が綺麗なのでアルミがベストでした。その上に、アクリルの箱を乗せて高さを出し、光源をアルミ板に当てて反射させるようにすると、さも透過型光源のように撮影できます。あまりにこれで事が足りてしまうので、実体顕微鏡を買い足すことなしに今もこれを使っています。
もう1つ程実体顕微鏡に関係することを。
一つはβ-galでレポーター遺伝子の発現を見るときに使います。何とか立体的に格好良く撮影したいものだということであれこれ試行錯誤していて、ラボを持って最初の学生が考えてくれたのがスライドガラスを3枚合わせて3角柱を作るという至ってシンプルすぎるものです。
これを横にして、染色した粘菌が載っているフィルターをかけてあげると、斜め横から撮影出来て立体的にピカピカ光って綺麗に見えます。この方法で撮影した写真を国際学会で発表すると、何人もの人からどうやって撮影したの?と聞かれる始末。論文として投稿した時もレフリーからとても綺麗で素晴らしいとお褒めの言葉を頂く程でした。彼らは、まさかこんな安い顕微鏡でこんな簡単な装置で撮影しているとは夢にも思っていないでしょう。
感じることがあります。
人間、無ければ無いで何とかしようと工夫するものだと。
最初から高価な実体顕微鏡があったらこのようなことは考えなかったでしょうに。
本当の技といえば、中堅の私立大学での膨大な雑務の合間を縫って現役で実験を続けるにはどうするか?というところなのでしょうが、秘技があるわけでもなく、それこそその気があれば何とかなるもんですよ。