2015年05月29日(金)

計算機とRNAをつなぐには

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公募班として参加する木立尚孝と申します。本プロジェクトにおいては、RNA結合タンパク質結合部位周辺の二次構造モチーフのバイオインフォマティクス解析を行うとともに、解析結果のデータベースの開発を行うことにしています。

生体分子のモデルの中でも、RNA二次構造の計算モデルは特に上手くいくモデルです。このモデルでは、生化学者Turnerらにより計測された自由エネルギーパラメータに基づき、天文学的な数の二次構造候補を網羅的に探索・評価することができます。また、統計力学のボルツマン分布に基づいて、配列の各領域でのステムの組みやすさなどを完全に計算することができます。このような計算ができるのは、情報科学において人間の言語を理解するために発展した、文脈自由文法理論のおかげです。この計算モデルを用いるとRNAの塩基対の六−七割を正しく当てることができます。

一般に、現実に則したモデルは計算が難しく、計算が簡単なモデルは現実とは合わないものです。従って、完全に計算ができるほど簡単でありながら、実験と定量的に比較できるほどの精度を持つこのような分子モデルは、物理・化学・生物学を見渡しても、まずありません。また、パラメータは生化学で決定され、確率分布は物理学に基づき、計算は情報科学の枠組みでなされ、生物学的発見を目的とする、という点で、異分野融合の例として歴史的意義があると思っています。

私は元々ゲノム配列の機能に興味があったのですが、特にRNA配列の研究を始めたのは、この二次構造モデルが複雑で、あまり研究している人がいなかったからです。現在でもこのモデルは十分活用されておらず、もっとうまい使い方があるはずだと考えています。バイオインフォマティクス研究は、計算機のパワーを生物学的発見にうまく活かすのがなかなか難しく、上滑りしてしまうことも多いものです。この点、二次構造の計算モデルは、RNA分子の構造と機能に起因する進化的制約をつかまえるために、しっかりしたグリップを与えてくれるはずと期待しています。

木立 尚孝

東京大学 新領域創成科学研究科 准教授
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