2017年02月09日(木)

20年

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早いもので,私がこのライフサイエンスの分野に入って今年で20年です。

私は,元々修士まで化学を専攻してきて,1997年に鳥取大学の押村光雄先生のラボに大学院生として入学したのがライフサイエンス研究の始まりです。最初のテーマは学位論文でもあるゲノム刷り込み現象の制御機構の解明でした。その当時,哺乳類には100個程度の親由来特異的に遺伝子発現を呈するものがあって,どうもその制御にタンパク質をコードしないノンコーディングRNAなるものが何かしらの機能を持っているらしいという程度の認識でした。私は,学位論文の中で,LIT1と呼ばれる父性発現を呈するノンコーディングRNAを潰すと,周囲の本来発現することのなかった母性発現遺伝子の活性化を見出しました。今でこそ,LIT1lncRNAがヒストン修飾酵素群を周囲の母性発現遺伝子近傍にリクルートし,ヒストン修飾を変化させることでゲノム刷り込み現象を制御していると考えられていますが,大学院生であったあの頃の私はノンコーディングRNAがゲノム刷り込み制御に関与していることを示せ,とてもエキサイティングした覚えがあります。

その後,私はポスドクとしてローレンスバークレー研究所のTerumi Kohwi-Shigematsu先生のラボで研究を続ける機会を得ました。彼女はSATB1と呼ばれる核マトリクス結合タンパク質の研究を精力的に行っていて,核ダイナミクスを介した新しい遺伝子発現制御機構を次々に提唱してきました。残念ながら,私自身がポスドクをしていた3年間でSATB1による研究成果は発表できませんでしたが,巡り巡ってどういう訳だか,帰国後10年が経った現在,再びSATB1を含めた核マトリクス結合タンパク質に着目した研究を行っております。XistlncRNAやLIT1lncRNAなどに代表されるノンコーディングRNAの機能について,これまでの数多くの生化学的手法を用いた研究により,ノンコーディングRNAがヒストン修飾酵素群を制御し,局所的なエピゲノム変化を引き起こすことはわかっておりますが,ノンコーディングRNAが如何に標的となる遺伝子座を認識し,機能するかについては未だにわかっておりません。私は,このノンコーディングRNAが標的となる遺伝子座に作用する分子基盤を自分の目で確かめたい!!という思いが今回の新学術領域でのテーマでもありました。この2年間では,十分な成果らしい成果をあげることはできませんでしたが,次に繋がる新しい発見も数多くさせていただきました。現在,私見ではありますが,核マトリクス結合タンパク質が核内ダイナミクスを介してノンコーディングRNAによる標的遺伝子座の認識機構に大きく寄与していることを示せるのではないかと考えております。また後日,論文発表ができましたら,ご報告させて頂きます。

さて,本新学術領域では計画班,公募班の多くの方々にたくさんの刺激をもらい,個々の大学で研究をしているとは思えないほど,研究の繋がりや拡がりを強く感じました。特に,本領域における超解像顕微鏡の講習会などを通じて中川さんには,改めて実験の面白さや奥深さを学ばせて頂いた気がします。このようなテクニカルな情報交換が気軽にできるのがまた本領域の良いところであり,且つ魅力の一つになっているのではないでしょうか。また今回の新学術領域では,様々な生物種を用いた非常に精力的な研究者と知り合いになることができて大変良かったです。今や一つの生物種に囚われることなく,それぞれの生物種のアドバンテージを活かしてある種の生命現象を解明する時代になったのではないでしょうか。その意味でも,今回の新学術領域の研究班は,とても良かったですし,刺激的でもありました。私ももしかしたら,数年後ミジンコに手を出しているかもしれません。(笑)最後に,領域代表者である廣瀬さんがオーガナイズされた今回の新学術領域研究における計画班および公募班の方々と交流できたことは,私にとって今後の大きな財産ですし,近い将来,融合して新しい研究分野が生み出されたらなあと考えております。2年間,本当にありがとうございました。

定年退職となる20年後に,これからの20年をどのように振り返るか,とても楽しみです。lncRNAによる作用機序の全貌が明らかになることを願って。

堀家 慎一

金沢大学 学際科学実験センター 准教授
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