気がつけば本領域も5年が過ぎ、中間評価がついこの間だと思いきや、最終年度の終了時期も押し迫っています。「この5年間、自分は一体なにをしたのだろう。その日の不機嫌をちょっとだけまぶしたパスタをいつもと同じように食べ終え、ソファーに寝転んだ僕は黙って出て行く彼女の後ろ姿をやれやれという思いでいつもと同じように見送った」、みたいな村上春樹風の気怠いモノローグ(フィクションです)が「この5年間振り返り」の定番ではありますが、それはいつものことだがそうでないのもいつものことだ(しつこい)、というわけで、真面目にこの5年を振り返ってみたいと思います。
長鎖ノンコーディングRNAの機能解析、という観点から言えば、個体レベルでの変異体の解析の報告をきちんとすることができたのは、「計画」どおり、まずやれやれ、といったところです。GomafuのKOマウスは行動異常を示すこと、「がん遺伝子」の扱いを受けていたMalat1のKOマウスでは腫瘍の悪性度がむしろ増すこと(これはめちゃくちゃ意外)、Neat1のKOマウスでは癌細胞の悪性度が状況依存的に増悪したり改善したりすることを、明らかにすることができました。「共同研究者の論文はすごいけどあんたらの論文はしょぼいじゃん」という批判は素直に受け入れるとして、Xistやimprinting座位のlncRNA群では当たり前のように行われていたけれどもその他の長鎖ノンコーディングRNA関連では腫れものに触れるように忌避されてきた変異マウスを用いた仕事が国内外を問わず次々と発表されるようになってきた昨今の状況を見るにつけ、これまで進めてきた方向性は全くの見当違いではなかったということで、少しは胸を張って良いのかなと思います。また、電子顕微鏡を用いた観察である程度示唆されていたものの、Neat1が骨格となるパラスペックルが綺麗なビーズ状のcore-shell構造を形成していることを明確に確認できた瞬間は、この5年と言わず10年の中のベストシーンも言える、まさに一つのハイライトでありました。
良いことばかりではなく、途中で頓挫したプロジェクトもたくさんありました。あれとかあれとかあれとかあれとか、、、でも、研究というのは面白いもので、計画していたことが100%うまくいかなくても、犬も歩けば棒に当たるで意外なところで100%マイブームになる出会いもあるものです。Gomafuちゃんが嫉妬してしまうかもしれませんが、この期に及んでモテ期到来。新規遺伝子でその変異体がlethalになりそうなものがまだまだありそう、というのもこの数カ月で大いに学んだところです。当ブログでもしつこいぐらいに感動を露わにしてきましたが、東海大の大塚さん、鹿児島大の佐藤さん開発のiGONADすごい、すごすぎる。一昔前は変異マウスをつくるというのにはそれなりの覚悟が必要でしたが、今やルビコン川がぴっちぴっちちゃぷちゃっぷらんらんらんの水たまりぐらいの感覚。deep sequencingの普及も含め、siRNAでKDができるんだ!in vivo electroportaionでニワトリにも遺伝子導入ができるんだ!のミレニアム2000年以来の興奮が訪れたのも、ここ数年の大きな変化だったような気がします。たかが技術。されど技術。我が世の春とまでいかなくとも、やっとようやく何の障壁もなくやりたいことが手軽に出来るようになった時代になったのは間違いないことだとおもいます。
冒頭の写真。あの、観葉植物と化していた胡蝶蘭。ふとこの間見てみたら、なんと花芽が出ていました。一週間前は全く気付かなかったのですが。この数年見ることのなかった明らかな花芽が、すくっと、伸びています。この花芽を見たときに一頭一番に浮かんできた言葉はなぜか「ツンデレ」なのですが、冗談はともかく、これから先どうなるのか、どこへ向かっていくのか、全く予想はできませんが、何か起きそうな予感。その、ワクワク感だけは、まだまだ続きそうです。