2017年07月08日(土)

十年後の自分へ

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今回このようなお題を頂き、昔のデータを振り返ってみましたところ、ちょうど十年前に、microRNA (miR)-33(a)の研究を始めたことが分かりました。現在はKOマウスの作成に対するハードルは非常に低くなりましたが、当時は研究費も少なく、遺伝子改変マウスの作成にはかなり賭けの要素もありました。培養細胞実験を繰り返し、絶対に面白い!という確信を持つに到り、ようやく作成に踏みきったことを思い出します。

それ以来、miR-33a欠損マウスにはHDL-Cの上昇に始まり、動脈硬化の改善、SREBP-1の抑制作用があることを示すことができ、miR-33aは、生体においては決してマイクロではなくメジャー級の働きがあることを明らかにすることが出来ました。引き続き、もうひとつのmiR-33bのノックインマウスの作成を経て、miR-33a/bの進化における役割についても思いを巡らせることもできました。また、本年には、miR-33afloxマウスを用いて、miR-33aが心臓の線維芽細胞において線維化を促進する作用があることも示しています。このあと、動脈瘤や骨髄機能に対する論文が控えています。そろそろ集大成かと思いきや、まだまだ新たな機能が見つかってきており、miR-33a/bに対する興味は尽きません。循環器が専門でありながら、神経学や内分泌学の世界も垣間見ることができ、生物学の奥深さとともに、日々研究の面白さを実感しているところです。

とは言いながらも、どんどん循環器内科学のコアな部分からずれていくことも実感していましたが、今回のlong non-coding RNAの仕事でようやく心筋の収縮、ミオシンというというテーマに立ち向かうことになりました。今後、「温故知新」を実践するような研究に育てていけるように、精一杯頑張りたいと思います。

10年前の今頃なら、臨床の研究室においてRNA研究がこれほど大きくなるとは考えもしませんでしたし、核酸医薬の治療応用も現実のものとは思えませんでした。その昔、21世紀になったら実現するものとして考えられていたものに、壁掛けテレビや空を飛ぶ自動車があったかと思いますが、すでに薄型テレビは一家に一台以上普及していますので、予想をはるかに超える進歩があることは当然といえます(自動運転は実現しそうですが、まだ自動車は空を飛んでいませんね)。

今回、本領域研究に参加させて頂く機会を得たことで、皆様のご指導のもと、伝統と最先端が融合したシステムを駆使して新たな疾患概念を生み出すことができればと思っています。今後の10年の進化がとても楽しみになってきました!

尾野 亘

京都大学大学院 医学研究科 准教授
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