Synchronicityにはいろいろ概念はあるようですが、日本語で言ってしまえば要は「奇遇」でしょうか。M1の時に八甲田山にぶらり一人旅で出かけた時、京都から1000 km離れた青森駅前で、一回生の頃になんちゃって劇団で僕の奥さん役を演じたYさんと再会したとか、その後Yさんは奥君と結婚して奥さんになったとか、奥さんになったYさんは劇団のリーダーのTKNが誰かの結婚式で東京に向かう時新幹線で後ろの席にいたとか、僕の昔からの悪友TがYさんと同じ大学の教員になって、とっても懐かしいのとなんで私がここにいるの?がごちゃまぜになった楽しい飲み会を3人でしたりとか、これはもうただ単にYさんが類い稀なる強力な奇遇癖を持っているだけかもしれませんが、この世の偶然というのは本当に面白いものです。
10年前、まだ僕が網膜の仕事にどっぷり浸かっていた頃の研究のキーワードは"spheroid"でした。未分化な網膜の細胞をバラバラにして再集合させても正しい層構造を持った組織はできませんが、毛様体付近の細胞を混ぜ混ぜしてやると綺麗なspheroid構造ができます。これはPaul Layerさんという方が1984年に報告した非常に美しく興味深い現象なのですが、この毛様体からの因子ってなんだろうな、もしかしたらWntだったりして、と隣のラボのお兄さんが持っていたWntタンパク質をふりかけてみたらあら不思議、綺麗なspheroidができました、ということを報告したのが2003年。一生分の幸運の半分以上をごっそり使ってしまったような仕事ですが、その後Wntは網膜幹細胞を維持する幹細胞因子として働いていること、超マニアックな人でないと面白さが全く分からないとは思いますがWntはNotchと独立にHairyを動かしていることなどが次々とわかってきて、まさにspheroid様様、でありました。そして10年後。パラスペックルのNeat1を超解像顕微鏡でのぞいていて、あの美しいspheroid構造に再び出会う事になるとは。µmスケールの構造からnmスケールの構造とその大きさには大きな乖離がありますが、この構造とはよっぽど縁があるのでしょう。一体どうやってこのような美しい構造ができるのだろう。このような構造は一体どういう意味を持っているのだろう。謎は解けたようでまたまだわからないことばかり。spheroidとの付き合いは、まだまだ続きそうです。