2018年11月03日(土)

RNAなひとびと

投稿者:

CSHL Asiaに初めて参加してきました。会場は上海のすぐ西にある蘇州。KeystoneにしてもGordonにしてもEMBOにしても、この手の泊まり込みミーティングは大概欧米で開催されるのでたどり着くまで一苦労。ついたらついたで時差ぼけで、頭は朦朧、体はクタクタ、というのが相場でしたが、飛び立って3時間足らずでもう上海。感覚的には新千歳から熊本に行くのとほとんど変わらず、ああそうかヨーロッパの人達やアメリカの人達はこんな感じに気軽に来ているのか、そりゃ交流も盛んになるわいな、というのを改めて強く感じました。そういう意味ではこれだけ近場で隔年でRNA関連のCSHL meetingが開催されるというのはとてもありがたく、再来年はorganizing committeの萩原さんによれば淡路島で開催されるらしいので、今からとても楽しみであります。

今回のミーティングで思ったのは、僕よりひと世代若い人達、勢いあるし頑張ってるなあ、ということでした。さすが相変わらずうまいところついてくる、というのがU PennのJeremy E. Wiluszさん。

faculty photo

Malat1の3'がtRNA/RNasePによる切断を受けて三重鎖構造をとって安定化される、という仕事を出した時も、おーっ!という感じでしたが(貧弱な語彙)、今回も誘導型のプロモーターの活性を制御する遺伝子のスクリーニングで、うわっ!という感じの(貧弱な語彙)仕事を出してました。まだ論文になっていないので詳細は省きますが、RNasePがpolIIで転写されたRNAに効く!?というのと同じ感じで、XXがプロモーターに効く!?という、常識破りのメカニズムを披露してました。彼の仕事を見ていていつも思うのですが、メインに期待していた結果とは違う結果が出てきた時に、そこに隠されている興味深い現象を見逃さない。一度現象の尻尾をつかんだら、もう逃がさない、という感じで、美しいデザインの実験がどんどん組まれていきます。それから、データが綺麗。綺麗というのは、作ったような綺麗さという意味ではなくて、クリアーに結果が出るような実験系を組んでいるので、自ずと美しい結果が出てくるんですね。あと、ちょっとヒト手間かけることを厭わない。今回も、ノザンブロットをやりまくってそこから出てきた結果が想像力を刺激する、という展開で、馬鹿の一つ覚えでqPCRばっかりやっていてはいかんなあというのを、強く、思った次第です。ちなみに、ミーティングのあとでLinglingの研究所でJeremyがセミナーをするというのでのこのこついて行ってそこでも彼の新ネタの話を聞いたのですが、non-AUGスタートコドン絡みで、これまた、ほぇっ!いう感じの(貧弱なry)仕事をしてました。彼はどうやら、これまでの常識では考えられないけれども、、、というネタを身近に引き寄せる何らかの誘因物質を持っているに違いない。というか、正しい問いを立て、正しいアプローチで実験を組む。当たり前ながら忘れがちなサイエンスの基本作法の重要性を改めて痛感した次第です。なんでもやりゃあいいってもんじゃあないんですよね。気合いがあればいいってもんでもありません。

また、北京はUCASのYuanchao Xueさんも、これもなかなか腰の入った仕事をされてました。

基本的には人々がDNAでやっているところのHiCみたいな解析をRNAでやってみようという仕事で、どうやらハブとなるlncRNAがあるみたいということでした。HiCのRNA版はアイデアとしては僕も考えたことはありますが、それは火星に行ってみたいなあというぐらいのアイデアで、それを本当に実現して、しかも新しいコンセプトを出してくるところがおぬしなかなかやるよのう、です。Neat1に関するデータも出していたのですが、ちょっと前にJason West君と一緒にやったNeat1 CHART RNAseqの結果と綺麗に一致する結果が出ていて、聞いていて大興奮。こういうのはなんていうのでしょう。砂漠の中を歩いてオアシスを見つけて、同じ目的で旅をしている人とたまたま出会って意気投合する、みたいな感じでしょうか。そう。学会やミーティングはある意味オタクの集会、(行ったことはないですが)コミケみたいなもんなんだと思います。趣味を同じくする人たちが、何がそんなに面白いんだか、というところで異様なほど盛り上がる。これがあるからやめられない、というところは、オタクも研究も一緒の気がします。

今回のorganizerの一人、Lingling Chenさんも相変わらず絶好調。

Image result for lingling chen

Neat1-パラスペックルがミトコンドリアの機能を制御している、という非常に興味深い報告をつい最近N Cell Biolに出していた彼女ですが、circRNAの仕事も続けていて、これがどうやら安定な二次構造を作っていてdsRNA応答にも関わっているらしい。確かに、linearなRNAに比べればcircuarなRNAは空間的に限定されているぶん構造を取りやすいというのは容易に想像がつきますが、それをきちんとデータに落とし込んでくるところの才覚はいつもながら素晴らしいです。彼女と話していていつも思うのは、RNAに対する、あくなき愛ですね。今回はラボも訪問させてもらったのですが、ピカピカの建物というわけでもないし、core facilityがfancyな機械をずらりと並べているわけでもない。でも、ハングリーさとRNA愛だけは誰にも負けない。ちなみに、ポスターで出ていた話ですが、Cas13もうまいこと使ってRNAの局在を可視化していました。「Cas13使えねー」、という話はちらほら聞くのですが、やる人がやるとうまくいくみたいです。何かコツがあるのか聞いたのですが、要は気合いみたいです。とにかくありとあらゆるものを試す、という姿勢が大事なようです。ちょっとやってみて、うまくいきませんでした、ではダメなんですね。自分自身を振り返ってみても、やってみてもうまくいきませんでした、というのを言い訳にしていないか。うまくいかなかった時にどこかホッとしている自分はいないか。うまくいかないのであればうまくいく方法を考えるのが筋ではないか。というのを、改めて教えられたような気がします。

その他、寡聞にして知らなかったのですが、lncRNAがらみでいうと、北京は清華大学のXiaohua Shenさんもなかなかセンスの良い仕事をされていました。

基本的にはクロマチンに局在するlncRNAをdeep sequencingで同定してくるという話なのですが、これも腰の入ったmutagenesisの仕事を組み合わせていて、きちんと局在化エレメントを決めているところが素晴らしかったです。彼女、Googleで検索するとトップで出てくるのですが、ラボのホームページの写真は、ん、あれ?これ誰?みたいな感じで、髪型が変わると人はここまで見た目が変わるのかあ、、、と、どうでも良いところでもびっくりでした。あ、ちなみに、写真よりも実物の方がもっと素敵な方でした。誤解なきよう。

オアシスがらみでいうと、まさにlegend、熟練の仕事をされていたのが、Y RNAの話をされていたNCIのSandra L. Wolinさんと、Group II intronの話をされていたAnna Pyleさん。Y RNAもgroup II intronもここ数年僕の中ではマイブームといいますか、一度ちゃんと本業でやっている人にじっくりお話を聞いてみたいなあと思っていたので、まさかこの場でこんなにタイミングよく本家大元の方の話を聞けるとは思ってもいませんでした。自分で調べていたら一週間も二週間もかかってしまうことが、プロに聞けば数分で解決、というのはよくあることで、こういう出会いもこの手のミーティングの大きな楽しみです。Annaさんは来年の福岡の分生にも来てくれることになり、今から楽しみ。

Image result for Anna Pyle

groupIIイントロンに対してデザインした薬剤がカンジダに効く!という話がそのうちNat Chem Biolに出てくるそうです。個人的にはgroup IIイントロンの進化の方に興味があるのですが、RNAの構造を元にsmall moleculeをデザインするというのはそうですかそうきましたか、という仕事で、とても興味深かったです。理研の吉田さんのスプライソスタチンAとRNAスプライシングの話もそうですが、RNAとケミカルバイオロジーは何かと相性が良いんだなあというのを、改めて思った次第です。

もうひとかたのlegend、Y RNAのSandraさんは、4.5SHのことをよくご存知でビックリ。まさかこの会場で4.5SHのことをご存知の方に出会えるとは。Hは原田でしょ、ウフフ、、、知ってるわよ。と話されていた時の穏やかな慈愛に満ちた笑顔。Y RNAのトークをされていた時の壇上の堂々とした姿。今に続くオープンでアクティブなRNAコミュニティーの文化はこういう方々によって作られてきたのか、というのを、まさに、目の当たりにした気分でした。

Sandra L. Wolin, M.D., Ph.D.

と、振り返ってみると、main organizerの一人がLinglingであったこともあるのか、女性ばかりが目立ってますね。うーむ。どうしたY染色体。もちっとデータをきちんと集めて頑張らねば!

こぼれ話

LとRで発音を間違えると意味が全然通じないというのは良く聞く話ですが、ロブスター、てっきりRobsterだと思っていたら、Lobsterなんですね。Jeremyさん、一体何が起きたのだ、こいつ何をしゃべり始めたんだ、という感じで、困惑顔。こっちもソワソワ。向こうもソワソワ。日常会話はとことん苦手でやっちまった感がありましたが、また一つ学んだということで。

おしんと山口百恵が中国でも人気というのは話には聞いていましたが、たまたま夕食で隣にいた方が昔よく日本のテレビ見てたのよ、ということで書いてくれた漢字。音読みをたどって、「おしん」か!「山口百恵」か!とわかった時の感動はなんとも言えなかったですが、どちらも知ってはいるけれどものめり込むまではまったわけではなかったので、いまいち盛り上がれずちょっと残念。

しょっぱなのトークだった泊さんが堂々の中国語自己紹介で大喝采だったので、最近論文にしたUPA-seqの名前のオリジン、ユパ様が登場するかの不朽の名作「風の谷のナウシカ」、つまり「風之谷」(ファンジーグー)をすらっと言えるように、ただそれだけのために発表前日のバンケットでは酒もほとんど飲まず部屋にこもってひたすら練習したのに、結局、たった3文字の中国語読みをその場で思い出せず撃沈。付け焼き刃はやはりいかんです。

普段高速で小樽に行く時は車間数百メートル、70km/hぐらいでのんびり、なので、空港から会場までの高速で、タクシーが100 km/h、車間10mぐらいでぶっ飛ばすのには、肝を冷やしてずっと後部座席でブレーキ踏みっぱなしでした。でも、アリの行列よろしく、この速度、この車間で全体が動いているので、実質ものすごい数の車が渋滞もせずに捌けてるのはある意味超合理的。

発表が終わるとお世辞でもいいから、「面白かったよ!」とか「分かりやすかったよ!」とか言ってもらえるのはとても嬉しいものです。でも、「いやあ、データー少ないからだれでもフォローできるよね」と返事した時に大爆笑していたのは、やっぱり社交辞令??

中国は初めてだったのですが、街を歩いていると、時々、どきっとするほと昔の知り合いに似た人がいて、とても不思議な気がしました。もう久しく会ってない人。会いたくても、もう会えない人。ああ、僕らの祖先はこの国から海を渡っていったんだなあというあたり前田のクラッカーなことに、ちょっぴり思いを馳せた最終日でした。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
▶ プロフィールはこちら

ブログアーカイブ

ログイン

サイト内検索