ちょうどその頃、私は、当時はまだ454シークエンス解析で出たCLIPのデータ(のちのHITS-CLIP)を、ゲノムブラウザで見続けて何か面白そうなものを見つけるという力技のバイオインフォマティクス、いや、ゲノム上のRNA結合蛋白質の結合領域をコンピューター上で眺める、まさにpanoramic viewに感動と興奮でいっぱいの日々でありました(それ以前に行っていた古典的な候補遺伝子アプローチっていったい何だったんだろう)。生化学や分子生物学のプロ集団の中で、私は、生理学的表現型のアウトプットに対して、もう一度RNA結合蛋白質の結合領域の分子の解析に戻って生物学的に必須な作動RNAエレメントを特定するという戦略を独自色として活路を見出そうと模索しておりました。こうした最先端の技術は、実は生化学的な伝統芸的手法やBufferやpHの選択と条件検討の積み重ねでもあったりします。そして改変につぐ改変を重ねて解像度を高め、効率化を図る永遠に終わりのないトライ&エラーへと続いていくものであった。まさに伝統と先端の融合、そして次世代への継承、こんな姿勢は、ロックフェラー大学時代のボスであるボブ・ダーネル先生から学んだ。そして、先の言葉にあるように、ボブからはジーター選手と共通の存在感(ニューヨーク感?)を(勝手に)感じ取っていたわけです。ちなみに私の母校は、元を辿ると東京職工学校、その設立理念が、「冒険」「伝統と近代の融合」、十代の少年にとって、とりあえずワクワクするには十分な言葉である。その後、気合いのはいった慶應の常勝ラボ(この話はまたいつか:)でRNA結合蛋白質に出会い、このNYの地へ行くことができた。10年前の経験は、恩師たちとの出会いによって幸運にも導かれ、それまで実態のなかった少年のワクワク感を間近で経験することとなったわけです。
先日、RNAタクソノミの領域班会議後期の公募班員として参加、発表をさせて頂きました。班員それぞれの渾身データの発表を聞き、同じ場所で発表できる喜びを感じつつも、結局、とても緊張してしまった。懇親会では、自分の発表に興味を持ってくれた方々からコメントを頂いて、ようやくその場に和み、逆にこちらから、班員の方々の研究について伺ってみると、質問したこと以上の返答に班員の方の研究愛を感じるという会であった。阿形評価委員からの総評では、「本RNA領域は、古くからの日本の強い生化学に立脚した伝統を継承した若い研究者たちによって育てられてきた領域です」と仰っていた(少し間違っていたらスミマセン)。10年前にNYCで感じたサイエンスに必要なことを再確認し、本領域に参加できたことに感謝でいっぱいになった。
本領域研究では、10年前の今頃なら、「訳のわからないRNA結合部位、なんの意味あるのこれ?」とお手上げだった未知の領域に対して、伝統と先端を融合したスマートなシステムで、異なる細胞コンテクストと細胞機能に着目し、包括的in vivo生化学データを得て、生理学的意義をもつRNAタクソンを同定する。今回、10年前の自分を振り返る事で、そんな目標を実現してみたいと誓った。