しかし、卵巣、、、大学院生以来一応一貫して「神経発生」を旗印に研究を進めてきたこともあり(といっても高々10年そこそこのキャリアだったのでそんなに詳しいわけでもなかったのですが)、卵巣がらみの解析というのはまるで遠い異国の話です。はたと困ってしまいました。そもそも卵巣のどこで発現しているのかも最初は分からず、マウスの組織学の教科書を引っ張り出して、ん、これって黄体か。で、黄体ってなんだったっけ?とひどいもので、中学校の保健体育の授業以来お目にかかることもなかった性周期のなんだか子宮壁が厚くなったり薄くなったりしている図が載っている教科書と格闘しつつ、とりあえずHsd17a1とかが良いマーカーらしい、ということでこの遺伝子のcDNAのFantomクローンを取り寄せてみて、in situ hybridizationで発現を調べてみたところ、
ない、ない、KOマウスでは発現がない!!
かなり嬉しい結果が出てきました。その時たまたまavailableだったWTとKOのメス個体2匹づつ見てみたのですが、黄体マーカーの発現が、KOではゼロ、WTではガンガンだったのです。
GomafuのKOではほとんど明確な表現型が見られず、Neat1のKOでも当初はやっぱり表現型が見られず、ついでに言うとpolIIによる全転写産物の2%をも占めるMalat1のKOでさえもまったく表現型が見られなかったのにいい加減うんざりしていた身としては、このn=2で見る限り完璧な表現型に天にも昇る気分だったのをよく覚えています。その日のビールはちょっぴり贅沢してプレミアムモルツ。ささやかな乾杯。ぷしゅーっ。
しかーし。なかなか物事は単純にはいきません。次の実験で別のKO・WTペアを見てみるとWTでもマーカーの発現がなかったり、もう一度やってみるとまた結果が再現されたり。とりあえず過去三回の実験の切片を全部集めてきて、どういうこっちゃ、どういうこっちゃと、サンプルをとっかえひっかえ顕微鏡を眺めていたら、なんだか頭がクラクラしてきます。ちょっと考えすぎなのかな、と、しばらく目をつぶってもう一度じっくり眺めてみても、やはりなんかフラフラしてきます。いかんいかん。もう一度気合を言れて見直すか、と、じーっとサンプルを眺めていたら、船酔いのようにえらく気分が悪くなってきました。と、ふと周りを見るとありえないぐらい揺れている、さすがにこれはおかしいぞ、と思ったのが3月11日のあの午後のことでした。