この学会は、その名の通りアミノアシルtRNA合成酵素 (aaRS, tRNAにアミノ酸を付加する酵素)の話題を中心とする学会です。全体としてはもう少しテーマが広がり、tRNA周りくらいまでの発表が含まれます。とはいえ参加してみると想像以上にaaRSの話ばかりであり、改めてこの分野の根強さを実感しました。1990年のworkshopが初回と位置付けられているようで、今回で10回目を数えています。参加者は100人強くらいとそれほど大きくありませんが、ボス同士の雰囲気が非常によく、学会内のコラボレーションの多さに驚かされました。それぞれに得意分野を確立させながら協力して分野を盛り立てているように感じました。もはや争う時代ではないとD御大が語っていたのも印象に残っています。
学会が開催されたバルセロナはスペイン第2の都市であり、直行便こそありませんが交通にも便利です。行く前にはオリンピックの開催地という印象が強かったのですが、現在ではアントニ・ガウディの建築物やサッカースペインリーグのFCバルセロナが主な観光資源となっているようです。その筆頭であるサグラダファミリアは会場から徒歩10分の距離にあり、参加者の多くが訪れていました(私も行きました)。食事面でも魚介類やパエリアなど嬉しい食材が多く、この点でも快適に過ごすことができました。現地の会話さえ勉強しておけば何ひとつ不自由無かっただろうと思います。
アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)は私の前ラボでよく解析されてきたテーマでもあるので、宣伝がてらイントロから紹介いたします。aaRSはタンパク質ファミリーの総称であり、フェニルアラニンにはPheRS、アラニンにはAlaRSなど(ラフに言えば)アミノ酸ごとに存在します。対応するtRNAの特徴(ex.アンチコドン配列など)を認識し、3'末端(CCAのA)にアミノ酸を付加します。アミノ酸付加にはATPが消費され、高エネルギーな結合が形成されます。これはリボソーム上でのペプチド結合形成にぴったりです。aaRSが間違えるとタンパク質のアミノ酸配列が損なわれるため、認識には高い正確性が求められます。アミノ酸とtRNAそれぞれに対する識別メカニズムが20種類以上もあり、しかも互いに関連しあうというのは非常に興味をひかれます。さらにtRNAとの共進化や遺伝暗号自体への示唆もあって、気になり始めると止まらなくなります。とはいえ、ただし、この辺りはすでに大枠が明らかになりつつあります。そして今回の学会では、最近のトレンドを反映してこの分野における次のステージとも呼ぶべき発表が数多く聞かれました。aaRSを用いた技術応用や、aaRSの変異に由来する疾患の解析、aaRSが及ぼす幅広い生命現象への影響などです。特に生命現象への影響については、"tRNAへのアミノ酸付加"という古典的役割に依らないものも多く、non-canonicalやdiverse、new functionといった単語が頻繁に使われていたのが印象的でした。食事時などには、この辺り個々の研究課題に加えて分野の移り変わりについても他の参加者の方々から教わることができ非常に勉強になりました。自身の研究生活にも生かせるようにしたいと思っています。
今回の学会参加をサポートしていただきました領域の皆様には厚くお礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。