2018年11月25日(日)

ちょっとすごいTokyo RNA ClubとMBSJ2018

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今年は暖冬ということですが、それでもここ数日で急に冷え込んでまいりました。札幌はもう一面の銀世界。この季節の風物詩といえば、分子生物学会、そして年々どっちがメインかわからなくなってきている、今年はちょっとすごいTokyo RNA Clubです。というわけでTokyo RNA Clubのゲストスピーカー、並びにサテライト、もとい、メインの分子生物学会でのセッションの紹介です。

まずは、大会2日目、11/29のAM9:00から3階の第8会場で、東大・薬の北川さんと北大・遺制研の廣瀬さん企画のワークショップ"Formation of non-membranous organelles driven by liquid-liquid phase separation"があります。な、なんと、世界的な大流行を見せている相分離研究を先導しているRoy ParkerさんとSimon Albertiさんが登場されます。

Roy Parkerさん(Lab homepage)といえば何と言ってもP-bodyの名付け親。

Sheth and Parker (2003) Scienceの論文以来、mRNAの分解に関わる因子が集積する謎の構造体P-bodyの研究をずっと牽引してこられたトップランナーですが、昨今の相分離研究の大流行も相成り、ますます輝きを増している感じです。論文の査読では分野を作ってきた第一人者らしく「僕、Roy Parkerだよ」と名乗ることで有名らしい(?)ですが、一連のエレガントかつ丁寧なお仕事はまさにサイエンスの王道。つい最近の、筋再生の時には通常の発生段階でTDP43がアミロイド繊維のようなmyo-granuleを作るという驚愕の発見も、ぽかんと開いた口がふさがらない、というタイプのお仕事ですね。今回はどんな話が聞けるのでしょう。ちなみにParkerさんはiBiologyにもトークが収録されていて、それらのコンテンツは英語のヒアリングの練習にもなり、特に学生さんにはオススメです。

もう一方のSimon Albertiさん(Lab Homepage)も、まさにノリにノッている、天然変性ドメインタンパク質と相分離研究の若きリーダーです。

Tony Hymanさんとの共同研究で今年Cellに発表された、FUSの天然変性ドメインの性質を決めるアミノ酸の文法がある、というMolecular Grammer論文は、まさにマイルストーン。グリシンが多いとしゃびしゃびになって、セリンやグルタミンはもっちりになるとか、天然変性ドメインではおなじみのチロシンと、これまたRNA結合ドメインではおなじみのアルギニンの相互作用で相分離が起きるとか、「なんとなく相分離」みたいな曖昧模糊とした世界の視界が一気に開けてくる気がする、爽快な論文。また、同じく今年発表された、RNAは天然変性ドメインを持つRNA結合タンパク質の異常凝集を防いでいるんだよ、という論文 (Maharana et al. (2018) Science) も、まあなんといいますか、構造体とRNAの研究をやってきた身からするとあまりにも面白すぎてjealousyを感じてしまうほど素晴らしい論文です。正直、くやしー!みたいな。jealousyは最高のモティベーションという言葉もあるらしいですから、悔しさを糧に、こういう良い仕事を目指していきたいものです。

このお二方が登場するセッション。特に相分離研究に興味がある方にとっては超オススメです!


もう一つの企画は、大会最終日、11/30のAM9:00から、5階第16会場であるシンポジウム"emergence of new RNA potentials"です。東大・IQBの泊さんと僕が世話人をしているのですが、Daniel Limさん、Eric Miskaさん、Stefan Ameresさんの豪華3名ゲストが話をされます。このシンポジウムは、機能性分子としてのRNAにはどんなポテンシャルがあるのか。また、その動作原理の詳細を調べるのにどのようなアプローチがあるのかを考えてみよう、という企画になってます。TRCには残念ながら参加できませんが、九大の松本(有)さんもlncRNAだと思ったらペプチドだった、というこれもある意味RNAのポテンシャルについてのお話をされる予定です。

まずお一人目のUCSFのDaniel Limさん(Lab homepage)。

2016年にゲノムワイドなCRISPRiを行って機能性のlncRNAをスクリーニングしたという論文がそれぞれScienceとNatureにどどーんと発表されたのを覚えておられる方も多いかと思いますが、そのうちのScienceの方の研究を主導したのがLimさんです。その論文では細胞の増殖に関わるlncRNAをゲノムワイドに浅く広く、という感じですが、Limさんがすごいのは、一つの遺伝子の機能もとことん深く解析するというところで、PTBP1と相互作用し神経幹細胞の増殖を制御するlncRNA、Pinkyのお仕事では変異マウスを作る。レスキュー実験もする。という筋金入りのマウス遺伝学を披露されてます。なんというか、この二つのお仕事、どちらも完成度が素晴らしい上に方向性が360º違うので、とても同じ人がやった仕事とは思えません。いや、同じか。ある意味、これからの時代、そのどちらもやっていかなければいけないということなのかもしれません。今回は神経細胞の分化の系で新たに行ったスクリーニングのお話もしてもらえるようです。どうでも良いことですが、実はLimさんが大学院生の時にSVZa神経幹細胞の仕事をしていたAlvarez-Buylla研って、僕がポスドクで行きたいなあと思っていたラボなんですよね。昔、神経発生。今、lncRNA。という意味では同じような道を歩んできたわけですが、、、。すごい人はすごいんです。はい。

お二人目は、遥かなるケンブリッジはGurdon InstituteのEric Miskaさん(Lab homepage)。

この方も引き出しがたくさんあるというかなんというか、線虫からウイルスから進化の研究でアフリカのシクリッドまで、実に幅広いお仕事を展開しておられます。僕の勝手なイメージですが、これぞ英国のサイエンス。「研究」をやっているというよりも、「学問」を生業にしている、というような言葉がふさわしいような感じ。で、今回のお題は何かというと、ちょっと前に南米で流行して世間でも話題になったRNAウイルスであるジカウイルスの二次構造をDeep sequencingを用いて調べる、というお話です。仲間、というような意味のCOMRADESと名付けられたこのメッソッド。RNAは決まった構造を取るだけでなく生体内では複数の構造を行き来しているものも多いと考えられますが、それをdeep sequencingでつかまえてやろう、という発想ですね。ちなみにTwitterアカウントも持っておられます。情報収集にオススメです。

三人目はこちらもdeep sequencingを利用してRNAのダイナミクスを調べるメッソド、SLAM-Seqを開発されたオーストリアはIMBAのStefan Ameresさん(Lab homepage)。

イメージとしてはバキバキのRNAサイレンシングの生化学の人、と勝手に思っていたのですが、ここのところのお仕事は有機化学とRNAの最新テクノロジーをうまく組み合わせたメソッドの切れ味が素晴らしく、SLAM-Seqは、なるほどそうやるものですか、と、賢い人はいろいろ考えるものだなあと感心させられます。手法の肝は4-チオウリジン(4TU)を取り込ませた後にアルキル化剤であるIodoacetamideで処理するところで、この結果、逆転写時に4TUを取り込んだところは、チオールのところがアルキル化されるためにAでなくてGが取り込まれます。これをdeep sequencingしてやれば、T to Cの変異が入った転写産物が、de novoに転写されたものであることがわかる、というわけ。アブストラクトでは、miRNAのメタボリズムのお話をする予定ですが、つい最近Scienceに発表された、SLAMseqの進化系SLAM-ITseqでBRD4-Mycの働きの違いを調べた話も聞けるかも。SLAM-Seqでは新規合成されたRNAを定量できるので、転写因子の効果を精度よく決めることができるんですね。この方もTwitterアカウントがあるようです。


しかしそれにしても、、、改めて眺めるとすごいメンツです。泊さん作のポスターもなかなかセンス良いですね。

これらの方々が一堂に会するTokyo RNA Club。GordonやKeystoneの1セッションが瞬間移動して東京に現れた感すらあります。で、これらの超強力研究者を迎え撃つは(いつから戦いになった?)、国内の若手研究者たち!先日のScienceに発表された5'キャップの6mAに関する衝撃の話は東大の穐近さん。超競争の激しいm6A修飾塩基の分野でこれだけ新しい新機軸を打ち出せるというところがさすが鈴木勉研究室、という感じです。それから、基礎生物学研究所の宮成研から栗原さん。APEXを駆使して構造体の構成成分を次々と決めておられ、技術的にもとても興味津々。また、東大秋光研からは小野口さん。ついにMalat1の正体のベールが剥がれるか。いやあ、こうしてみると国内組も負けてませんね。海外からはテトラヒメナの望月さんも応援に駆けつけてこられています(だから戦いではないって)。若い力を存分に見せつけてください!

今回はTokyo RNA Clubでは初めて小柴ホールでの開催です。事前登録は必要ありませんので、お近くの方は是非おいでください。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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