2015年09月06日(日)

No.5

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今ではしれっとncRNA研究者のようなふりをしていますが(トレース)、元々はトリ胚の解剖屋。一番お気に入りといえば何と言ってもこれ、No.5ピンセットです。ピンセットでncRNAをつまめるわけもなく、これは当然、胚の解剖用なわけでありますが、このピンセット。留学先でfellowshipの研究費で初めて買った消耗品(あとは砥石とPAGEのゲル板とロータリシェーカーだったか、、、)のうちの一つ。スイスはDumon社製の品で、もう17年あまりお世話になっています。

 ご存知の方には釈迦に説法ですがピンセットの型番は形を現していて、No.5はいわゆる「ダイセクション」で最もよく使われる先細タイプのピンセットです。持つところから先が熊本城の石垣のような美しいカーブを描いて急激に細くなり、そこから先にかけてスラリと延びているピンセットですね。買ったばかりのNo.5は先端は糸のように細いものの噛み合っていないので、実は何もつかめません。なにかを掴むのがダイセクションの本質ですから、砥石に押し付けるように先を削って平坦にし、今度は横にして研いで厚みを減らし、さらに幅も減らして出来上がり!実はその時に先端を鋭い鋭角でなくむしろ鈍角よりの角度にするのがコツ。初めてダイセクションを教わったのはゴッドハンドの持ち主、現熊大のS村さんなのですが、オオガラパゴスフィンチの嘴のようなピンセットを使っておられるのを見て、なんだこんなもんか、僕ならもっとうまく鋭く砥げるもんね、と思ったのはまさに若気の至り。どんなに細く研いでも、どんなに鋭く研いでも、S村さんのようにembryonic brainの薄皮をすいすい剥くことは出来す、「つまむ」ことに特化した形を突き詰めるとあの形に行き着く、ということに気づいたのは、だいぶ経ってからでした。留学先で帰国直前の最後の日は、引き出しの奥にしまいこまれていたラボ備品のピンセットをかたっぱしから研いでオオガラパゴスフィンチに仕立てていたのは良い思い出です。誰か使っくれているのかなあ。もっとも、ピンセットの形の好みは人それぞれなので、今から思えば大迷惑だったのかもしれませんが。

これまでずっと実体顕微鏡とピンセットだけ使った仕事に憧れを抱き、そのような仕事を目指していましたが、そういう時代でもなくなってきてしまいました。でもやはり自分が手にする道具には、こだわりを持っていたいものです。

中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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