当時、NAISTでは、学術論文一報が学位取得の条件で(現在は、取得条件が変っていると聞いている)、投稿中の論文がアクセプトされると、年に4回(3月、6月、9月そして12月) ある学位審査の一番近い会に、審査を受けることができた。私の場合は2007年12月の論文審査に間に合うようにと、アクセプトの一報を今か今かと待っていたことを記憶している。
私は、島本研の花成チームで、フロリゲン(Hd3a)と相同性のもっとも高いファミリー遺伝子,RFT1の研究を進めていた。当時はゲノム編集技術もなく、RNAiの技術を用いて、Hd3aRNAi イネ、RFT1 RNAi イネ、そして、同時にHd3a とRFT1の発現抑制を試みたdouble Hd3a-RFT1 RNAiイネによる3種のRNAi イネを作成して、花成の制御機構を解析した。通常、水田の稲(栽培種)は1年性なので、播種してから2~4ヶ月で花が咲く。しかし、Hd3aとRFT1の発現が同時に抑制されたdoubleHd3a-RFT1 RNAiイネは、300日経ても花が咲かないことから、イネにおいては、Hd3a(短日フロリゲン)とRFT1(後、長日フロリゲン)が重要な花成因子なのだということを明らかにした。2007年12月の学位審査直前にDevelopment誌から受託の通知があり、学位審査を終え、2007年12月に無事に博士(バイオサイエンス)を授与していただいた。12月ということもあり、私を含めたった三人だけの授与式だった。講堂ではなく、事務棟の小さな部屋だった。安田國雄学長(当時)が、一人一人の学位論文のタイトルを仰り、学位記を授与していただいたときは、目頭が熱くなった。10ヶ月オーバーしてしまったけれど、少人数の授与式もいいなあと思った。2007年は、フロリゲンで話題になった年でもあるが、個人としても、はじめて学術誌に研究報告し、学位をいただき、研究者の一歩を踏み出すことができた重要な年となっている。
写真にのせているイネ(右)は、10年前に自身が作成したdouble Hd3a-RFT1 RNAiイネの“現在”。当時、花成チームでポスドクをされていた田岡健一郎氏(現木原生物学研究所) に、株分けしながら保存を続けているdouble Hd3a-RFT1 RNAiイネの写真を撮って送っていただいた。“ずっと育てていると、株によっては、散発的に出穂するものもまれにありましたが、基本、出穂はない(花が咲かない)といえると思います。”と説明もいただき、一応、double Hd3a-RFT1 RNAiイネは10年間花が咲いていない。ということになる。10年間、花を咲かせずに、栄養成長しつづけていたイネの写真をみて感慨深く、そして心熱くなった。
2017年、本領域に、繰り上げで拾っていただいた。10年前の2007年も、そして、現在の2017年も、多くの人に支えていただいて研究を進めることができている。運も味方に、2017年は、生殖non-coding RNA群の機能の突破口を切り開いた年だったな〜と、10年後の2027年に振り返られるよう日々精進していきたい。