実験は、前年に、DNAナノ構造の世界で、CaltechのPaul Rothemund博士によるエポックメイキングなDNA Origami法が発表されている事は露知らず、面白そうだ!という感じで始まった。Rothemund博士のGoogle Scholarプロフィールはこちら。DNA Origamiの論文は、2017年7月21日現在で、3,615回引用されている。DNA Origami法は、1本の長い1本鎖DNA(通常はM13ファージ由来の7,249塩基の物を使用)を、多数(200本程度)の短い1本鎖DNA(30-40塩基)を用いて折りたたむので、"折り紙"の名前がついている。ハーバード大学Wyss研究所による短い説明動画(26秒)はこちら。また、Rothemund博士のTED talk(16分24秒)はこちら。細かい点はさておき、硬い棒であるDNAで蛋白質をつなぐ事で、キネシンが長距離を効率良く歩く仕組みのいったんを明らかにし、論文にまとめる事ができた。
ご他聞にもれず、論文化は、すんなりとは進まなかった。
初めて書くFull paperで、また、supplementに長い長いディスカッションを書いた事もあり、英語がわかりにくい、という事で、1番目の投稿先が査読にまわらず帰ってきた後に、共著者の原田慶恵先生(現在の阪大でのボス)の御紹介で、Peter Karagiannis博士(当時、阪大・生命機能。現在、京大・CiRA)に英語を全面的に書き直していただき、2番目に投稿した。今度は、査読にまわしてもらえたものの、査読プロセスでは、1st round目では簡単なコメントのみだった差読者#2が、2nd roundで"ちゃぶ台ひっくり返し"を行い、storyを全面的に書き換えたりと、当時は長く感じたものだが、記録を見ると、2009年の2月に投稿し、10月に3rd roundで受理されているので(8ヶ月)、実際には、標準的な生物系論文よりも少し長い程度だったようだ。
孔子の言うように、三十而立(三十にして立つ)ができたかどうかはわからないが、とにもかくにも、自分の色が初めて出た論文だと個人的には思っており、実験を頑張った宮薗さんに加え、大変お世話になった(順不同)、富重道雄先生、原田慶恵先生、田口英樹先生、上田卓也先生、等を初めとした様々な方々のお陰であり、感謝の念が尽きない。
1本の2本鎖DNAで2つの蛋白質ドメインをつなぐだけであった実験は、その後、DNAナノ構造上に蛋白質や核酸をナノメートル精度で分子配置した、転写を初めとした機能を持つ分子デバイスに進化している(杉山弘先生、遠藤政幸先生には、DNA Origami技術をお教えいただいた)。
生物は、分子が混みあった環境で効率良く反応を進めるために、関連因子が集積化した超分子複合体、あるいは、"反応場"を形成している。DNAナノ構造に様々な分子を集積化し、生物物理的・生化学的に解析する事で、試験管内、細胞内や、個体内における、これらの"RNA反応場"の再構成や分子機構解明に少しでも切り込んでいきたい。