2016年11月15日(火)

tRNA 2016参加レポート

投稿者: 山下 征輔

 東大新領域・富田研究室の山下です。3月までつくばの産総研でしたが、ラボと一緒に柏に引っ越してきました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。昨年に引き続き領域からのサポートをいただいて、韓国で行われたtRNA conference 2016に参加してきました。会場と学会のレポートを報告いたします。

 開催地の済州(チェジュ)島は朝鮮半島の南に位置する火山島で、韓国のハワイとも呼ばれるリゾート地です。風景の美しさはさまざまなドラマや映画の撮影に利用されるほどで、ロケ地めぐりの観光客も多いそうです。島の南側の海岸線には会場となったロッテホテルをはじめ高級ホテルが立ち並び、いかにもリゾート地、という雰囲気の中で5日にわたって発表が行われました。一方で、少し内側に歩くと途端にスーパーやコンビニ、学校や食堂などといった日常の街並みに様変わりし、生活風景に触れることもできました。

 学会はtRNA conferenceというタイトル通り、tRNA周り全般を対象とします。生物学的な重要性や種類の多様性を反映してかtRNAの修飾に関連する発表が多く、修飾それ自身の役割や修飾を担う酵素の解析について幅広いセクションで報告されました。そのほかにもアミノアシルtRNA合成酵素や、リボソームおよびmRNAと関連した翻訳制御、omics的な解析、各種疾患との関連からtRNA fragmentによる遺伝子発現制御など、tRNA周りを満喫できる内容です。私自身も口頭発表の機会をいただいていい勉強をすることができました。幸い発表が一日目だったため早々と緊張から解放され、またその後の他の参加者への自己紹介が円滑になり非常にやりやすかったです。エレベーターで一緒になったPIに自己紹介した際には”私がレビュワーです。”とカミングアウトされ、お礼を言うことができたのも貴重な経験でした。

 今回の学会で個人的に印象に残ったのは、tRNAの修飾という遺伝子発現の基盤的な現象を、大規模データ解析を通して特定の生命現象と関連付けた発表が多かったことです。そもそもtRNAの修飾の主要な役割として、立体構造の安定化と遺伝暗号の正確性の制御が挙げられます。後者に関しては、37番(アンチコドントリプレットの隣)への修飾が読み枠のずれを防いだり、34番(コドンの3文字目)への修飾が遺伝暗号の縮重を厳密にコントロールしたりしています。いずれもその生物(ないしオルガネラ)においてどのタンパク質も共通して従うべき原理です。そのため、”このtRNA修飾の解析から、遺伝子発現の基盤メカニズムのひとつを明らかにした”、と言えますし、それでキリのいいところだと思っていたのですが、いくつもの発表がそこで終わらずにゲノム解析や発現プロファイル解析まで進めていました。例えば、その修飾が関わるコドンが多く含まれる遺伝子群や、修飾酵素をノックダウンなどした際に影響の出る遺伝子群が、どのような生命現象と関連しているか、といった解析です。ストーリーのひとつは、それら具体的な生命現象がtRNAの修飾を通して制御や最適化を受けているのだろう、というものです。流行りの技術のこの分野での使われ方に納得しつつも、終わると思ったタイミングで終わらない発表が続いたことに落ち着かなさも覚えました。後になれば、自分で勝手に”キリのいいところ”などと思ってしまっていたことが反省されます。たしかに生命全体を支える大がかりなメカニズムも、一見個別の遺伝子発現のためだけにあるようなメカニズムも、別に隔絶している必要はなく連続的だったりもしそうです。実際には実験結果の範囲では隔絶していることがきっと多いのでしょうし、論文として発表する際にはある程度断定してストーリーをつくるにしても、学会発表を聴くときくらいはイメージに捉われすぎないようにしようと感じました。

 最後になりましたが、旅費を支援していただいた領域の皆様、および事務手続きで大変お世話になった高橋様に厚くお礼を申し上げます。

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