2018年01月31日(水)

ある都市伝説

投稿者:

私は大阪に住んでいる。大阪は飛鳥時代の古くから、難波津(なにわづ)と呼ばれた港を中心に大陸・諸国との交易で栄えた。それ以来、水運に支えられて経済と文化の中心的都市として発展し、明治の頃には“水の都”と呼ばれた。そのため大阪には多くの橋があり、八百八橋といわれる。私の住む近くにも大川という淀川の支流が流れていて、難波橋(ライオン橋)、天神橋、天満橋など多くの橋がある。

世界遺産「熊野古道」を含む「熊野街道」の起点である渡辺津(わたなべづ)は、江戸時代以降「八軒家浜」と呼ばれていて、うちのすぐ近くにある。そこに立つ碑によれば、白河上皇や鳥羽上皇は鳥羽離宮(現在の京都市城南宮辺り)で身を清め道中の安全を祈願した後、淀川を船で下り八軒家浜辺りで上陸し、熊野街道を通って熊野三山へ往復1か月ほどかけて参詣したという。八軒家浜の辺りは、京都方面と熊野方面の霊力が巡礼道を通じて流れ込み交わるような場所だったのかもしれない。

現在の八軒家浜は、遊覧船、ダックツアー(水陸両用車)など観光ビークルの起点となる「川の駅」として有名だが、その他にシティサップという一種の水上スポーツの拠点ともなっている。サップ(SUP, Stand Up Paddle)は、大きめのサーフボードのようなものの上に立ちパドルで漕ぎながら水上を行き来するというものである。言ってみれば立位のカヌーのようなもので、水上さんぽとも呼ばれる。サッパーたちは、水都大阪に張り巡らされた網目のような水路を、場合によっては半日もかけて自由に行き来するという。犬の散歩の途中でサッパーの人たちと知り合いになり、彼らから以下のような話を聞いた。

大阪市は観光の振興のために、大阪城をはじめ様々なものを夜間ライトアップしている。橋もその例外ではない。八軒家浜近くの「天満橋」も夜間ライトアップされているが、橋本体のライトアップだけでなく橋の下部から水面に向かって多数のスポットライトが照射されていて、水面のさざ波に反射してきらきらと輝き美しい。この多数のスポットライトはそのほとんどが円形なのだが、たった一つだけ星形のものがあるという。大川を行き来する船頭さんらは、できるだけこの星形が船に照射されるように橋の下を通過するという。星形が船に映れば、幸運が訪れ航海の安全が保証されるからである。私や友人らがその星形を岸や橋の上から双眼鏡などで確認しようとしたが、水面には常に波があり果たせなかった。この波の為、星形を見つけるのは船頭たちにとってもたいそう困難であるという。不思議なことに、天満橋のライトアップの責任者であろう大阪市のHPなどを調べても、この件に関する情報は皆無である。というわけで、この話の真偽の程は確認できなかった。ところが最近、あるサッパーの女性が撮ったという写真を入手することができた。この写真を撮った女性はそれから大変な幸運に恵まれ、宝くじで大金を得たという。この話を信じるか信じないかはあなた次第です。

大野 睦人

京都大学 ウイルス研究所 教授
▶ プロフィールはこちら

ブログアーカイブ

ログイン

サイト内検索