今回、我々の論文ではQki5が胎児期の神経系では、特に神経幹細胞に限局しているRNA結合蛋白質である、というのが出発点になります。その限局した様子は、あのMusashi1よりもシャープといってもよいのではないでしょうか、事実、少し分化の進んだbasalタイプの前駆細胞では発現が激減します。つまり、幹細胞機能とその性質維持にとってとても重要なんだろうと考えたわけです。事実、世界の様々なグループから出るわ出るわの胎生期大脳皮質のsingle cell transcriptome、RNAseqの結果を再解析してみたりすると、その通り、RNAレベルでもとてもシャープに限局しておられます…と、うかうかしてると他のグループから、同じ様なアイデアの論文が出てしまうのでは、という焦りと被害妄想を感じながらの展開でありました。しかし、ここまでは、空想と仮説でunbiasedでなく発現パターンが面白いRNA結合蛋白質ということになります。ここから、我々は、Qki5の機能に対して、今回のキーワード、unbiasedにunbaisedに攻めようと、神経幹細胞の選択的培養系を用いたRNAseq解析を行い、やはりどうも神経幹細胞性に関わってることが分かりました。しかし、これはあくまで、Qki5の発現を抑えた上でのアウトプットとしての現象なわけで、直接作動機序を意味していません。そこで、伝家の宝刀HITS-CLIP解析を行い、胎生期のマウス脳におけるQki5のRNAの結合部位の同定(1塩基解像度!)から、target遺伝子群、その制御ルールまでを(これをもってunbiasedではないいんじゃない?と言われたら正直、手の打ちようがないです…)検証していきました。unbiasedとは、対局にある候補遺伝子アプローチの観点から標的遺伝子群を眺めてみると、想像していたより、いわゆる神経発生的な感じではない。それなら、Qki5の842標的遺伝子群がどういったパスウエイを担っているかもう一度unbiasedに答えを頂こうではないか。この結果がまた面白いことに、たった二つのパスウエイのみが有意性を示したのです。しかも、両者とも細胞間接着に関わるということで、どうもbeta-カテニンを中心とした系に集約される経路なのではと導き出されたわけです。最終的に、このパスウエイのRNA発現異常と表現型が、コンディショナル欠損マウスで証明できれば我らのunbiasedストラテジーの勝利!という構成で論文を仕上げることができました。実際、欠損マウスで、重要なシグナル分子のRNA発現異常や、beta-カテニンの染色像でmesh-like 構造が観察したときが、このunbiasedストラテジーの終着点となり、”どうだPrediciton通り”と論文の文章中でのクールな装いとは別に、最高に嬉しい瞬間でありました。思えばNova2の研究の時も、これはシナプス機能に大事だと思いつつシナプス関係を調べていたら神経発生に大事だったり、思った通りにいかないことばかりがまたサイエンスだったりします。それはこちらのセンスによるものなのかどうか。それはさておき、一旦unbiasedな視点に戻って、正確な研究技術を使って答えを問う、遠回りでも結果的に路頭に迷わない、そんな言い訳をしつつ、引き続き頑張ってまいりたいと思います。
最後に何より、このようなクリーンで正確な逆遺伝学戦略によりマウスを作成して頂いた新潟大学脳研究所の崎村教授研究室の皆様、また応援頂いた共同研究者の皆様、RNAタクソノミの皆様の研究支援に、この場を借りて心より感謝申し上げます。