2015年02月15日(日)

“あきらめる”のも一種の“決断”??

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ヒトデミトコンドリアtRNAAsnの配列:アンチコドンはGΨU ヒトデミトコンドリアtRNAAsnの配列:アンチコドンはGΨU

前回の投稿、公式連載「はじめが大事?」の続きを書かせてもらいます。

修士2年目の夏前の研究会でのネガティブな研究結果発表の後、渡辺公剛先生がベンチにきて、「あなた、もう飽きたかい?」とおっしゃられました。植物ミトコンドリアにおけるRNAエディティングの試験管内実験がうまくいかなかったこともあり、博士へ進学することを希望していた私は、内心「ほっと」し、動物ミトコンドリアにおける遺伝暗号変化の分子メカニズム解明にテーマを変えることになりました。今でも、その時の状況、自分の心境は鮮明に覚えています。

動物ミトコンドリアでは独自の蛋白質合成システムが存在し、普遍暗号から逸脱した変則暗号が使用されていることが知られています。新たな研究テーマ「無脊椎動物ミトコンドリアにおける遺伝暗号変化の分子機構」をミトコンドリアtRNAの修飾塩基をふくめた解析を通して明らかにすることを目指しました。ショウジョウバエ、ヒトデ(東北まで産卵時期に採りにいきました)、イカ(築地の魚市場で購入)などから変則暗号を含むコドンボックス解読に関わるミトコンドリアtRNAを分離、精製して解析を進めました。最終的に10数種類のミトコンドリアtRNAの修飾塩基を含めた配列を決定したでしょうか。

当時の渡辺研ではtRNAの分離、解析に長けている(ある意味、マニアック=うるさい)先輩たちが多数在籍し(本新学術領域研究の鈴木勉さんも、その一人です)、技術的なことは先輩たちに教わりました。ハエ成体、ヒトデの卵巣、イカの内臓を温めたフェノール溶液中でワーニングブレンダーあるいはミキサーを用いて破砕し(フェノールが飛び散って、部屋中がフェノール臭くなります。同じことをフランスで植物tRNAをとるためにやったら、においがひどいので、ひどく叱られました)、核酸成分を抽出し、トータルtRNA画分をカラムで分離し、そこからごく微量のミトコンドリアtRNAを目的とするtRNAに相補的なDNAを固定化したアガロース担体を用いて、ハイブリ法で分離、精製しましました。RNAの直接解析は、Donis-Keller法と、Kuchinoらの方法(post-label法とも呼ばれ、一種の職人的な技術、勘、そしてセンスが必要とされます)によって決定しました。今では、本新学術領域研究の鈴木勉さんが行っているように、質量分析でスマートに決定できるようになっておりますが、当時は大量の32Pを用いた古典的な方法で解析をしていました。

ヒトデのミトコンドリアではAAAコドンはリジンではなくアスパラギンを指定するコドンになっています。しかし、アスパラギンに対応するミトコンドリアtRNA(mt tRNAAsn)のアンチコドンは(DNA上で)GTTとなっており、どのようにしてmt tRNAAsnが通常のアスパラギンコドンAAU、AACに加えてAAAコドンをも解読するのか明らかにされていませんでした。当時、おそらくアンチコドン1文字目のGがI (イノシン)のような塩基へと修飾を受けているであろうと考えられていました。

博士課程の1年目の終わりに、ヒトデのmt tRNAAsnを解析したところ、アンチコドン配列はGΨUであり、1文字目は未修飾のGのままであり、かわりに、「意外にも」、アンチコドン二文字目がΨ(シュードウウリジン)へと修飾をうけていることが明らかになりました。暗室でオートラフィルムを現像した後、アンチコドン2文字目に相当するTLC上にΨのスポットを確認した時の興奮は今でも鮮明に覚えています。Donis-Kellerの解析を見直し、アンチコドン1文字目がT1で切断されていること、アンチコドン2文字目のアルカリラダーが薄くなっていることをも確認し(これもRNAの解析経験豊かな先輩たちからの示唆)、結果に自信をもったのを覚えています。その後、他のヒトデのmttRNAAsnでもアンチコドン配列がGΨUであることをも確認しました。

ドイツのHildburg Beierが終止コドンUAG、UAAの細胞質サプレッサーtRNATyrのアンチコドンがGΨAをもち、サプレッサー活性にアンチコドン2文字目のUがΨへ修飾を受けることが必要であることを報告していました。この報告から、ヒトデmttRNAAsnでもアンチコドン2文字目がΨへ修飾をうけることによって、未修飾のアンチコドン1文字目のGはAAAコドン3文字目のAをも認識できるようになると考えられました。一方、ヒトデのmt tRNALysはアンチコドンがCUUであることも明らかにしていたため、AAGコドンのみがリジンとして読まれると考察しました。センスコドンが他のアミノ酸を指定するといった遺伝暗号変化にATPなどのエネルギーを必要としないUからΨへの修飾が(あるいは修飾酵素の出現)関与しているということで、面白いことを見出したと、興奮してその夜はあまりよく眠れなかったのを覚えています。

その後の研究の流れとして、アンチコドンGΨUをもつtRNAによるAAAコドン認識能を証明するということになりました。最終的に、大腸菌のtRNAAlaの主たるidentity elementがtRNAアクセプターステムのG3-U70であること(1980年代アメリカのWilliam McClain、Ya-Ming Hou、 Paul Schimmelらが明らかにし、昨年、横山茂之先生が詳細な構造基盤を明らかにしました)を利用して、アンチコドンがGΨUをもつtRNAAlaを分子整形で作成し、アラニンを受容したAla-tRNA GΨA によるmRNA内のAAA認識能を試験管内の蛋白質系(当時はS100と精製したリボゾームをもちいるものでした)で証明することができました。

結局、それまでうまくいかなかった植物ミトコンドリアおけるRNAエディティングに関する実験をあきらめて(中断して)行ったこれらの研究内容が博士論文の要となりました。

ある研究テーマに興味をもって研究を開始するのはいいけれども、なかなかうまくいかないことがよくあります(研究の半分くらいはそうだと思いますが、)。時間、労力(さらには研究費)をかければ、それだけ、その研究に執着してなかなかあきらめきれずに時間だけが流れて行ってしまうことがよくあります。「うまくいかないから、すぐに別のテーマへ移るのも、どうかな?」と思いますが、ある時間軸で「あきらめる」、「中断する」と決断するのも、ある状況では必要であるような気がします。自分がそのような決断をしているか? と自問自答が続くこの頃ですが、「あきらめる」ことがネガティブなものではなく、その後のために必要なポジティブな「決断」であると考えるようにすればいいのですが、その判断がかなり難しいのがネックです。それから、テーマ等を変更の決断をするにしても、これまでの研究と一貫性のある「研究の哲学(フィロソフィー)」「いい研究(グッドサイエンス)」がジワジワと他の研究者に伝わるものにしたいと思っています。

富田 耕造

東京大学 新領域創成科学研究科 教授
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