着任した専攻のパンフレットをパラパラ眺めていたところ良い言葉を見つけたので紹介しますと、理論計算機科学分野には「月に向かって刀を研ぐ」という言葉があるそうです。これは単純には「目の前の大根をも切れぬナマクラ」、つまり現在の課題の解決には全く役に立たないという悪口ですが、むしろ「いずれは月をも斬るための刀が出来るかもしれない」という志と捉えられるようです。理論計算機科学では、数学と同様一度確立した事柄は数十年たっても不朽であるため、将来の技術の礎を作っているという自負なのであろうと思います。さて、では私は月を斬るべく刀を研いでいたのかとポスドク時代の自分を振り返りますと、やはり目の前の大根、じゃなかった手元のデータを解析する技術の開発に汲々としていたような気がして少し恥ずかしくなってきます。無論、バイオインフォマティクスは実用上の要請という面も強くあり他分野の技術開発の影響も大きく受けるため、数十年たっても不朽の事柄は大変限られてきますが、それは大根を切るための包丁を作っていれば良いという事を意味はしないだろうと思います。(逆に、目の前のデータを解析するための技術を作らなくてよい、というわけでも全くないのです。)
50年先を見据えたバイオインフォマティクス技術とは何か。50年前といえば、くる年2018年は、木村資生先生が中立進化論を発表された年にあたります。一つの答えは「データベース」だと思いますが(PDBは設立46周年だそうで)、2018年、ディスプレイから顔をあげて月を眺めながら考えたいと思います。