2019年01月12日(土)

DAPALR 論文

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大変遅くなってしまいましたが、昨年5 月に発表しましたオオミジンコのlncRNA、DAPALR 論文。研究のヒストリーを紹介させていただきます。

もうずいぶん前のことで 2010 年、「オスの性決定遺伝子doublesex1 (dsx1) の5’ UTR 領域のみでオス化が起きる謎」の解明が始まりました。しかしながら、フェノタイプが非常に微妙、、、。図に示したように、よ〜く見ると触角が長いのが見えるのですが、見慣れていないと見逃してしまいそうな違いです。ただのインジェクションによる奇形か?とも思うこともありましたが、コントロールのRNA では生じないこと、さらにdsx1 のmRNA のインジェクションのフェノタイプと似ていたことから、きっとdsx1 の制御に関わる何かとても面白いことが裏にあるに違いない!と考え研究をスタートさせました。当時、論文発表まで8 年かかるとは思いも寄らず、、、。ちなみに、この年PubMed でlong noncoding RNA と検索してヒットする論文は、159。まだまだ多くはありませんでした。

ラッキーだったのは、何も手がかりがなかったのではなく、近縁種のタイリングアレイデータを見るとdsx1 の上流からdsx1 と同じ向きで5’ UTR とオーバーラップして転写されているnoncoding RNA がありそうということがわかりました。タイリングアレイの結果通り、5’ UTR とオーバーラップして転写されているsense-overlapping RNA の存在をオオミジンコにおいてもRT-PCR で確認し、さらにオス特異的に発現していることも見つけ、5’ RACE, 3’ RACE で全長を決定し、この全長をメスに発生する卵に注入するとオス化が生じる、ノックダウンするとオスがメス化することを発見し、2013 年、欧州の科学雑誌に投稿しましたが、reject。一人のreviewer からは、ゲノム配列をよく見ると3’ 末端のすぐ下流にpoly-A stretch があり、ここにartificial にoligo dT が結合して、本当はもっと下流の方まで転写されているのではないか。この場合、doublesex1 のcoding 領域も含まれた場合、coding RNA なのではないか、というご指摘。5’ UTR 領域でオス化が生じているのでnoncoding 領域の重要性は間違いないのですが、これが、Major concern ということでしたので、先送りしていたこの問題を解決しないと次には進めないと決心し、3’ RACE に再度challenge することにしました。

しかしながら、poly-A stretch の下流でプライマー設計し、3’ RACE をしても非特異的なPCR 産物ばかり増えてきてしまい、、、基本に戻ってまずpoly A が付加されているか否かを調べることにしました(本来は最初にやるべきだったのですが、、、)。すると、polyA が付加されていないことが判明。一転、非ポリアデニル化RNA の3’ RACE に取り組むことにしました。発現量が少ないため一筋縄では行きませんでしたが、DAPALR が最も発現している1齢の幼体のオスを大量に集め、antisense oligo でDAPALR をenrichment することで、とうとう3’ 末端を決定することができました。

2013 年頃から研究室でミジンコのゲノム編集技術の開発も進め、TALEN、Crispr/Cas を使ってノックアウトが可能になりました。ついにミジンコでもノックインが可能になり、TALEN を使ってdsx1 の遺伝子座にmCherry をノックインし、内在性のdsx1 の発現を可視化できる個体を作出することに成功。ミジンコは2 倍体のため、選択的に片方のアリルを切断するということは難しく、通常は両アリルに変異が入ってしまうのですが、奇跡的にmCherry が挿入されなかったアリルには変異が入らず野生型のDsx1 が発現しほとんどオスの表現型が変化しない個体を作出することができました(2017年論文発表)。この系統でDAPALR 過剰発現やノックダウン後mCherry 蛍光を確認することで、簡単にDAPALR のdsx1 遺伝子活性化能をアッセイでき、DAPALR の機能、作動エレメントの解析が非常に進みました。

一方で、dsx1 の転写を活性化する因子の探索もDAPALR 研究と並行して進めていました。これも時間がかかったのですが、予想外に時計遺伝子として知られていたbZIP 型転写因子をコードするvrille がdsx1 を活性化することを発見(2017年論文発表)。Vrille タンパクの結合部位がDAPALR の上流にあること、lncRNA は近傍の標的遺伝子と同じように制御されることが報告されていることから、Vrille ノックダウン、過剰発現、Vrille 結合部位への変異導入を行ったところ、dsx1 同様にDAPALR もVrille により制御されることも明らかとなりました。このように、DAPALR の転写活性化、転写されたDAPALR の全長、DAPALR の機能までを通して明らかにすることができ、これらの成果を論文にまとめ2018年5 月に発表しました。

2018年、Pubmed でlong noncoding RNA と検索してヒットする論文は2,720。論文数は10 倍以上に増えましたが、まだまだゲノムの至る所から転写される多様なlncRNA の作用メカニズムについては未解明な点が多いかと思います。引き続き、DAPALR を研究対象としてよりメカニズムに踏み込んだ研究を行い、新たなRNA 現象を解明できるように研究を進めていきたいと考えております。最後に、本研究でお世話になった先生方、とくにネオタクソノミ領域の先生方には多くの貴重なご助言をいただきこの場を借りて感謝を申し上げます。

加藤 泰彦

大阪大学 大学院工学研究科 助教
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