2016年08月23日(火)

ブリーディングと聞いて思い浮かぶこと

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動物のブリーディング(breeding)と聞いて皆さんは、どんな動物を思い浮かべるでしょうか?血統書付きのワンちゃんでしょうか、それとも競馬の競走馬、はたまた牛や豚などの家畜動物でしょうか?それぞれ、繁殖にはきっと「こつ」があり、季節や動物の健康状態、交配環境など適した条件が必要だと思います。時には、人工授精などの先端の技術が使われることもあると思います。

我々が研究しているマウスの繁殖についても、実は同じです。マウスは1年を通じて、湿度温度が完全にコントロールされた快適な部屋で過ごします。しかし、彼らは、人間のこの涙ぐましい努力を知ってか知らずか、敏感に季節を察知します。特に、寒い(2月)また暑い(8月)時期には、繁殖が落ちると言われています。そもそも中には、繁殖に向かないマウスもおり、そういったマウスたちに如何にして増えてもらうか、日々頭を悩ませることがあります。人工授精などの発生工学の技術を使うこともありますが、基本的には雄と雌でペアを組み、自然交配で繁殖してもらうのがベストです。

これまで、繁殖が難しかったマウスに以前紹介したパンダマウス(JF1) が挙げられます。研究用に古くから飼育されているいわゆるヨロッパ産「ラボマウス」と出所が違うこのマウスは、なかなか増えてくれません。どうしたら増えてくれるのか?最初は手さぐり状態でした。太古の哺乳類を想像してみてください。きっと、昼間は大型肉食動物が闊歩しており、マウスのような小型哺乳類は茂みでひっそりと隠れて生活していたはずです。明るく、広いところよりは、暗く狭いところを好むはずです。研究用のマウスの小屋は透明で外からよく見えるようになっています。これでは、マウスも落ち着いて子孫を残こすことは出来ないでしょう。そこで、小屋の前に遮光用の幕 を置きました。また小屋自体を、棚の最下段で蛍光灯の光が届き難く、空調のファンモーターの振動が一番伝わり難い所に移動しました。また、動物販売業者から、マウスが隠れることができる小さな段ボール製の隠れ家(専門的には「エンリッチメント」と言うそうです。確かに、豊かな生活がおくれそうな名前です。)を手に入れました。これらを用いると、なんとか順調に増え出しました。一時期、遮光用の幕 を外したことがあるのですが、その間ぴったりと交配が止まってしまったので、効果があるだと改めて感じました。生き物相手にどう上手くつきあっていくかも研究を進める上で重要な「技」ではないでしょうか。

小林 慎

産業技術総合研究所 研究員
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