2016年08月15日(月)

日々是学習

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研究においては、予想通りの結果にならないことは日常茶飯事である。しかし、それが大発見であることは極めて稀で、大概はどこかで何かを間違えた結果であることがほとんどだと思う。自分で実験していた頃は、あのステップで間違ったかもしれないなと振り返ることは比較的容易だった。しかし、PIになるとそうはいかない。学生が持ってくる様々な不思議な結果について、探偵のごとく推論を重ねるしかない。本当は学生自ら解決して欲しいのだが、何人もの学生を指導していると、だいたい4通りのパターンに分類できることを学習した。

学生の考察1

「自分はプロトコール通りやりました。だからこれは新発見なのです。」

最も重症な超ポジティブタイプで、自分がどこかで間違ったかもしれないという発想はない。結果は正しいという前提なので、学生本人の考え方から改善させないといけないのだが、これは実際のところかなり難しい。例えば、ヘテロ接合体同士を交配したのに、仔が全部野生型というような結果になれば、確率的にはもちろんありえる。しかし、やっぱり何か変だと思ってほしいところだが、突然変異が起こったのではないかと主張する学生が実際にいた。しっかりコントロールを置けば、大概の実験の妥当性は検証できるのだが、目の前の課題で頭がいっぱいになってしまう学生が実に多い。ポジコンとネガコンをしっかり置くことを面倒に思う人も多いが、実際にはその方が失敗した時の原因究明が容易であり、同じ実験を繰り返し行う時間と経費も節約できる。実験が上手い人ほど、そうしていると思う。

 

学生の考察2

「機器やキットに不具合があるのではないでしょうか?」

一応何か変だと気がついているだけ救われるが、自分が何か間違えたかもしれないという発想がない点では1と同じである。ある学生が、分光光度計でタンパク質の濃度を測ったらマイナスのOD値が出てきた。タンパク質の濃度が薄すぎてそうなっただけなのだが、その学生は分光光度計が壊れていると主張して譲らなかった。最近は便利なキットが多数あって利用する機会も増えたが、先輩にやり方を教えてもらったのをいいことに、プロトコールも読まずにキットを使う学生が多いのは残念で仕方ない。経験的にも、学生本人よりもキット側に問題があったケースなどほとんどない。こういったプロトコールにある但し書きや注意書きには実に大事なことが沢山書いてある。キットや機器の原理をよく理解していれば、うまく行かない原因も突き止めやすい。

 

学生の考察3

「今回はたまたま上手くいかなかっただけです。もう1回やってみます。」

ちょっと急いでいたから、使った試薬が少し古かったかもしれないから、という時の運のせいにするタイプも実に多い。失敗したことは気がついているが、何も原因を究明せずに、とにかくもう1回同じことをやり直せば、上手くいくかもしれないというある意味無策のタイプ。もう1回リピートするにしても、同時に何かを変更した条件でもやってみることが大事だと思う。運以外の要素を考える習慣を付けてもらうには、これが最善の策だと思う。

 

学生の考察4

「思った通りになりませんでした。どうしたら良いでしょうか?」

誰かが解決してくれるのを期待する指示待ちタイプ。大学は講義を受けて単位をもらえば卒業できるが、大学院は答えのない研究をするところであり、失敗の原因究明は自ら解決しなければ研究者にはなれない。こういった考え方の転換ができていない学生は少なくない。明日までに自分で解決策を考えてきなさいと期待を込めて課題を出すと、「新しいキットを試したいと思います」と脱力寸前の提案をしてくることもしばしば。

 

このように学生の考え方も多様だから、傾向と対策も個々に対応しないとカイゼンできない。教育とは、実験よりもはるかにルーチン化が難しいと痛感するこの頃であり、日々是学習中である。

河原 行郎

大阪大学 医学系研究科神経遺伝子学 教授
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