あばたもえくぼとはよく言ったもので、見た目表現型が全く出ないGomafuノックアウトマウスがむしろどんなプロジェクトよりも可愛くなってくるというのは初恋のなせる技。というかこれは悪女につかまったという方が良いのか、、、
My favorite geneといえばGomafu。その名の由来は、そのまんまゴマフアザラシなわけですが、先日、稚内を旅行中、ふと海辺に立ち寄ったところ、遠くの浅瀬でゴマフアザラシの群れがのんびりくつろいでいるのに出くわしました。さすが北海道。レアものゲットです。ん、多摩川を泳いでいたこともあったか、、、
というわけで、いろいろ紆余曲折がありながらも、以下の4.5SHを介した新規遺伝子発現制御機構を見つけることができました。
1) SINE B1と高い相同性を持つncRNA 4.5SHは核内に大量に存在する。
2) 4.5SHはUTRにアンチセンス方向にSINE B1が挿入されたmRNA群(asB1群)と二本鎖を形成する。
3) 二本鎖形成によって核外輸送の効率が低下する。
4) 4.5SHをノックダウンするとasB1群が細胞質で増加する(SINE B1プローブで確認)。
ここで大きな問題が一つ残っています。そう。asB1群の中で、具体的なターゲット遺伝子は何か?という問題です。これを明らかにしないことには、なかなか「良い」論文にならない>「良い」論文がないとお金がとれない>お金がとれないと実験ができない>実験ができないから「良い」論文が書けないという負のスパイラルが発動!してしまいます。そこで、相当のコストがかかるので躊躇していたのですが、ここが勝負と気合を入れてマイクロアレイ解析をすることにしました。今ではレトロ感が漂うマイクロアレイ解析ですが、2009年当時はまだまだピカピカの高級車的な存在でして。。。
前回からだいぶ時間が経ってしまいましたが、そろそろいろいろ後ろも詰まっていますので、4.5SHは蜜の味の長文最終章「夢から醒めて」??をお送りします。は?何の話だったけ?ということで、過去二回をざっくりまとめますと、、、
↓核内に局在する新規lncRNAを同定するため、Fantomクローンをプローブに片っ端からin situをしていた。
↓核内に大量に蓄積するもの大量に同定!
↓実はレトロトランスポゾン配列が入っていただけだった。orz...
↓気を取り直してレトロトランスポゾン配列を除いたプローブで実験再開。
↓核内に大量に蓄積するAK037328を同定!
↓そのプローブでノザン解析しても予想されたところにバンドが出ず、、、
4.5S RNAH(以降4.5SH)という一目無機質なこの名前。その名の通りSは沈降係数スベトベリのS。Hは、4.5Sの沈降係数を持つRNAをアガロースゲルで展開したらバンドが幾つか見えて、順番に一郎、二郎、三郎ならぬ、A, B, C, ....と名前をつけて行って、8番目の兄弟ということでH。ということらしいですが、HはこのRNAの配列を決定された原田文夫先生の名前のHとかいう噂も、、、ともあれ、このRNAが同定されたのはなんと1980年。DNAクローニング技術が一般的に広く普及する以前の話です。32Pラベルされているとはいえクローニングしなくても電気泳動で分離すればバンドが見えてしまうわけですから、発現量の多さが分かるというものです。シークエンスの決定も今ではなかなか想像できないですが、このRNAを精製してきて、RNaseA(C or Uの3'を切断)もしくはRNaseT1(Gの3'を切断)で切断した断片を二次元ペーパークロマトで展開してフィンガープリントを作成。それぞれのスポットを様々なRNaseで分解して塩基組成と末端配列からフラグメントの配列を予測。さらに部分分解を用いてフラグメントをアラインメント。気の遠くなるようなベンチの作業とデスクでのパズルのピースの組み合わせを経て決定された配列は1980年のNARに発表されています(Harada and Kato, NAR 8, p1273- (1980))。potential functionについての洞察は示唆に富み、とてもエレガントな論文です。
我々とこの4.5SHの出会いは、多くの劇的な恋がいつもそうであるように、まさに偶然と勘違いから始まりました。
超ウルトラスーパーデラックススペシャル時間のかかった仕事がようやく世に出ました。現iPS研究所石田くんの7年越しの力作です。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gtc.12280/full
mRNAのUTRにはレトロトランスポゾンSINE B1が随所に挿入されていますが、マウスの核内には4.5SHというSINE B1とよく似たncRNAが超大量に存在していて、SINE B1が逆位に挿入されたmRNAと相互作用して遺伝子発現を抑制している、という発見です。
Keystone Meetingに初めて参加したのは博士課程の1回生から2回生になる時で、ちょっと背伸びをしたいという気持ちが強くなる時期であったこともあり、学振DC1のサポートをいただいていて旅費や参加費を自腹で出さなくても良かったという事情もあり、上の世代の先輩方があれは良い、あれはすごい、さすがKeystoneだ、と手放しで絶賛されるミーティングはいったいどのようなものだろう、と、いちびって参加したのですが、語学力の問題があり、そもそも基礎知識が圧倒的に不足したことも災いして基本ぼっち状態。最終日のディナーでは微妙な笑みを仕方なく浮かべながらひたすら酒を飲み続ける気味の悪い東洋人の隣に座る羽目になった方々はさぞ気味悪かったと思いますが、一つの夢がはっきりと破れたことを自覚して帰国したのを昨日の事のように良く覚えています。
研究が壁に当たったらどうするか。ラボの同僚に聞く、友人に聞く、ボスとディスカッションする、いろいろ手段があると思いますが、結局のところ、その分野の世界の最前線で働いている人に聞くのが一番です。
やっぱりこの表現型は本物だ。絶対間違いない。と思って夢中で顕微鏡を覗いていたところにグラリときて、数日間は思考停止。
心の整理は今だについていないような気がしますが、引っ越し直後に被災された東北大の杉本さんが、さきがけRNAの仲間に宛てたメールで(当時杉本さんはさきがけRNAと生体機能のアドバイザーでした)「明けない夜はない」という言葉を引用されているのを目にして、止まっていた時計の針がようやく動き出したのを今でもよく覚えています。
さて、レフリーコメントをみて心を入れ替えてきちんと♀マウスの組織におけるNeat1の発現をみたところ、見たこともない強いシグナルが卵巣で見られたわけですが、こうなると卵巣がらみの表現型をきちんと見なくてはいけないのは明白です。