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2014年12月12日(金)

Can Get Signalためしてみました

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超解像顕微鏡は解像度が上がる分、ピクセルあたりのシグナルは当然弱くなるので、明快なイメージを得るためには通常の抗体染色よりも強いシグナルが必要となります。とはいえ、抗体染色の良し悪しは抗体の性能に大きく依存するので、濃度を上げる、反応時間を長くする、といった小手先の工夫では大して変わらないというのも事実です。抗体が染まらんかったら自分で作れ!!これこそが学生時代から叩き込まれた王道、という方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、抗体を作るのにはそれなりに手間がかかります。藁にもすがる思いでなけなしの財布を叩いてS社とかS社とかS社とかの抗体を買って泣きを見るというのもよくある話です。まったくあの会社。よく訴えられないものだ。とよく思いますが、こちらが悪いということもママあるもので、特に熱処理による抗原の賦活化でまったく染まらなかった抗体がビカビカに染まるようになるというのはよくあることです。「クエン酸 抗原 賦活化」あたりでググると秀逸な記事がたくさん出てきます。また、in situ hybridizationの際にはProteinaseK処理をすることが多いですが、その処理によってもシグナルが著しく改善されることもあります。経験的に、細胞表面の膜蛋白質の抗原はProK処理で失われることが多いけれども、核蛋白質の場合はむしろシグナルが強くなることのほうが多いような気がします。核内はよっぽどタンパク質が密に詰まっているからでしょうか。ですので、核内ncRNAと核タンパク質との二重染色は案ずるより産むが易しのことが多いです。産んだことないのでお産はやっぱり大変そうですが、、、

いつもながら話が脱線しかけたので元にグイっと戻しますと、TOYOBOから、Can Get Signalという人を食った名前の商品が売られています。この商品、数年前に広告で名前を見た瞬間にこいつら絶対に売る気がないな、アガリクスみたいなものなのだろうなと反射的に判断して記憶の地層の奥深くに埋めこんでいたのですが、昔のラボの後輩のI君が、「あれでなかなかバカにできないところもありまして結構愛用していましたよ」なんて言うものですから、疑心暗鬼ながらパラスペックル関連抗体で試してみました。結果は、、、

抗体にもよりますが、これ、結構改善されてるじゃないですか。うーむ。室温保存だし見た目はただのPBSだし、高級感ゼロの溶液ながらなかなかやるではないか。中身はなんなんだろうとググってみると同じようなことを考える人はたくさんいるようでGoogleの検索候補にCan Get Signal 原理とかCan Get Signal 成分とかいろいろ出てきますが、開発した人の労苦に敬意を表してMassで成分解析をするようなことはやめましょう。と言いつつ、PBSとまぜてもやもやするかみてみたり、pHを測ってみたりしてしまいました。屈折率は変わらないのでPEGみたいな親水性高分子が入っているわけではなさそうです。Solution AのpHは弱酸性溶液のようです。酸浴、、、、どこかで聞いた言葉ですが、なんか耳鳴りがしてきたので、これ以上の詮索はやめておきましょう。というわけで、TOYOBOの回し者ではないですが、こちらが商品になります。どうしてもシグナルが弱い時は、固定条件を変える、熱処理による賦活化を行う、その次の選択肢として試してみる価値は十分にあるような気がしました。総括班で買っておきましょうかねー。

最終修正日 2014年12月17日(水)
中川 真一

北海道大学 薬学研究院 教授
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